短い小説

□慰撫
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「ミツ、バ……、ミツ……」


ずずっ、と鼻を啜る音がし、それからバリバリという何かをかじる音。

俺は離れる事が出来なかった。

慰めてやりたかったから。


「…ツバ、逝くな……」


あの男の弱い面を知ってしまって、戸惑った。
あいつだって、俺の前では餓鬼くさい意地を張りつつも強がっていたかったと思うし、知られたく無かっただろう。

ただ。

羨ましいとも思った。
純粋に恋が出来たあいつが。

俺が恋なんてモノをした事などあっただろうか。
気になる人がいた事はあったが、その人が一番かと聞かれればもっと大切な人が何人も居た、そんなモノ。

恋というモノがそんなにも人を弱くするのか。


「恋、か……。」









「失礼するぜ、ゴリさん」


突然の訪問にも応じてくれるのは、やっぱり借りがあるからか。


「土方を慰めてェんだ」


「そうか。トシと似ている銀時なら、トシの辛さも分け合えるかもしれない……俺からも頼む」


酒を一緒に呑めば、話せると思った。





そうっと廊下を歩いて、襖をノックする。

「ひ・じ・か・た」


返事は無い。


「入るからな」


わざと音を立てて襖を開ければ、土方がこっちを見た。
色の無い目。
それでもポーカーフェイスを保っている。


「なんだ」


目が赤いのは、泣いていたからだろうか。啜り泣いていた証拠に丸まった大量のティッシュが部屋に散らばっていた。そういえば、鼻も赤い気がする。


「お酒、呑まない?」


一つ一つの語句を確かめながら、そう口に出した。


「他の誰かと呑め」


残念ながらそんな相手はいないんだよ。なんて、言わないけどな。


「ヤダと言ったら?」


一回断られたら駄目だと思う。内心焦りつつも挑戦的な態度をしてみる。


「……なんで、俺に構う」


土方がこちらを見た。睨みつける目。心はもうびっくびく。でもここで諦めちゃあ、駄目だろ?だから、土方の言葉は無視した。


「男同士でしか話せない事、話そうぜ。」


睨んでいた土方の目が、急に左右へ揺れ動いた。

土方は、迷っているんだ。


「俺は土方、お前と呑みたいんだぜ?」


自然に口から零れ落ちた言葉を聞いて、土方は俯いた。歯を食いしばって震えている、小さな身体。


「馬ッ鹿野郎………、なん、で…」

「泣くなって」


隙間風がひゅうるりと音を立てた。

呑ませろ、と呟いた土方は涙を一筋流していつもの様に微笑んだ。







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