短い小説

□君の視界をいっぱいにしたくて
1ページ/2ページ



汗で肌に張り付いている髪の毛を、掻き分けてやる。
ふわりと爽やかな匂いが鼻をくすぐった。
これは体臭なのだろうか。銀時はなんだか幸せな気分になって、土方の横に寝転ぼうとしたが、今からすることへの罪悪感から、やめた。

今から俺は、壊すのだ。

汚れ無い土方を。



土方は何も悪くない。

全ては俺の我が儘だ。


最初は壊すつもりなんてなかった。

したかった事は、俺の事しか考えられないようにする、俺しか視界に入れない様にする。
そんな事でこの芯の通った男の想い人が変わるはず無いだろうが、愛が復活する事を願って。

俺はただこいつを一番愛してる。こいつがいない世界なんか、いらない。だからこそ、一緒に居たくて胸焦がれた。見る度にあいつの柔らかい笑顔を思い出してはため息を吐き、あいつの想い人を睨んだ。
見ない日には、あいつは誰にでも優しいのだから、と気持ちを落ち着かせた。
好意なんて少しも無かっただろう昔の俺にも優しかった様に、あいつにも同じなんだ。切なく感じるのは、ちょっとだけあいつの方が好感を持たれているから、それへの嫉妬だ。
大丈夫、大丈夫。
俺があいつを抱けば、あいつは俺を好きになる。また、愛は戻って来る。

そう考えていた。

…そんな事無いはずなのに。




あいつのあの笑顔を思い出しては、泣き崩れそうになった。外に居ても、すぐ万事屋に帰って、一人で泣いた。

そしてわかった。

哀しいのは、あいつの想い人は元から近藤だとわかっているからだ。

気づいてからは涙は出てこ無くなった。当然といえば当然。なのにそれに気づくのが遅すぎた。

そのせいで……いつしか、あいつの視界に他の奴らが存在するのが許せ無くなった。

あんな奴らにも、好きだと言われたら頬を染めるのだろうか。
身体を開けと言われたら開くのだろうか。
そうなるとだんだん憎悪が芽生えだして。

…俺は土方を壊すのだ。

俺の諦めが悪いばかりに。



どうであれ結局俺の身勝手じゃないか。

フッ、と鼻から自嘲が漏れた。




ごめんな、と心の中で謝ってからゆっくり土方の身体を揺らした。

「土方…土方…」
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ