短い小説

□一夜限り
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「ねぇ、今夜限りでいい。明日になったら俺を焼くなり煮るなり、どうしてもいいから。」

俺の上に覆いかぶさっている坂田の顔は、いつものふざけた顔では無く真剣で、必死に懇願してる事がわかった。
いつもの目と違い雄の色をしている坂田の瞳が俺の目を捕らえたら、きっと抜け出せなくなると確信していたので、捕らえられる前にさりげなく視線を避けた。

セックスはしてもいいと思っている。なぜか、坂田ならいいと思った。
先程の話も聞いている訳だし、同情していたのも事実だ。
ただ…。

土方には、苦いという言葉しか当て嵌まらないがそんな言葉じゃ済まされない程、苦い思い出があった。

まだ奥州の道場にいたときの話である。
歳もそれなりになった土方は、初めて「性交」というものをした。

ミツバ、と。

気持ちが良かった。これ以上なく。天国の様だと思った。
だから、ミツバの痛い、もうやめて、と拒絶する声など無視して(無視したのでは無く夢中で聞こえなかっただけなのだが、結果的には無視したことになる。)激しく上下運動をした。
……次の日、ミツバは起き上がる事すら出来なかったという。
「十四郎さんが初めてなら、仕方ないですよ。」とミツバは言ったが、腰を動かす度に眉を寄せ、息を飲む姿がいたたまれなくて罪悪感を覚えた。
…ミツバとの情事はその一回だけだった。

ミツバを拒絶したのは、自分では幸せに出来ないとわかっていたのもあったが、あの時の罪悪感も理由だ。

もし自分が入れる方なら、またそうして坂田を傷つけないか不安だ。
自分が受け入れる方なら、なおさら怖い。

「土方。優しく抱くから、さ?」

俺が受け入れるということの不安を感じてたというのに…それでも、俺を抱く事で坂田の心が癒されるならいいと思った。こんなに傷ついている、弱い坂田を、いつもの様に笑わせられるなら…。
だから深紅の瞳と目を合わせてからしっかり頷いた。
そもそも、酔った人間を放って置ける性分でも無かったが。





すぐに行為は始まった。
唇が落ちてくる。
赤い唇は、恐ろしいくらい欲情を誘って土方を震えさせた。
…ぞくぞくする
坂田の唇が俺の唇を捕らえる。
温かさが伝わってきて、心地好いと思った。
舌を迎える準備はできている。
突然、温かさが消えた。
そしてまた温かさが戻ってきた。その繰り返し。
つまり坂田は、触れるだけのキスを繰り返しているのだ。
そんなもので感じるはずが無い。…する気はあるのか?
しかしこれは俺が快感を感じるための愛撫では無い。
坂田が気を紛らわすための、愛撫だから。
無理矢理思い込むが、正直ショックは隠せなかった。
坂田の銀の毛が毎度瞼を擽るので、俺は目をつぶった。

「ひじかたァ…」

少し経ってから坂田の切羽詰まったような声がした。

「ごめん…ごめんッ」

何故か必死に謝っている。
誰に対して?俺に対してだ。しかし、それ以外の意味は知る術も無い。

なんで謝るんだ、と聞こうとして目を開けた。
目前には坂田の情炎に燃える瞳があった。
何もかもを熔かしてしまう、赤い瞳。
それに吸い寄せられるように見つめていたが、坂田の頭が下がってくるのを感じて慌てて目を閉じる。
顎を少し上げられてすぐ、舌が口内に進入してきた。
…舌が、熱い。
舌が触れ合った刹那、俺は痺れを感じた。
それと共に快感。
坂田の舌に応える様、必死に舌を絡める。
激しく舌を絡め合ったせいか、どちらのか混ざってわからない生温い唾液が俺の頬を伝う。それすらなんだか気持ちがよかった。
幾度も幾度も唾液を求め合って、唇を放す時には俺は情欲に濡れていた。
坂田も同じ様で、低く呟いた。

「…続けていい?」

「好き、に…しろ。」

坂田は悲しそうに笑って言った。

「ごめんな。」

何故、悲しいくせに笑うのだ。
熱で高ぶっていた土方はそう思うも、深くは考えなかった。

着流しがはだけさせられ冷気が身体をなぞる。少し熱が冷めた気がする。残念な気がするのは気のせいだろう。土方は平常な思考ができる様になった。



………イイ。


キスだけで、イきそうになる。こいつは慣れてんのか?


慣れてるなら、誰と?


俺とは関係無いことだけど、考えずにはいられなかった。

志村…とかいう奴か?
柳生も有り得るな。
神楽は無いか?始末屋の納豆忍者は?

あいつの周りに居る女共が浮かんでは消えた。

…男も、在るかもな。

総悟か?近藤さん…も、山崎も慕ってるし、原田はどうだ?
攘夷の関係がある、桂や高杉も…、それから坂本も有り得る?
眼鏡はどうか?
もしかして松陽…つー奴か?
…天人か?


可能性はどんどん出てきて、とまらなかった。


それが無性に…ムカつく。



坂田と交わりを持った人がいる、それがムカつく。

俺は坂田の二番目だからか?
近いような近く無いような…。


ただ、なんだかやるせなかった。


また、そいつは坂田を悲しがらせた。
それに対しても、やるせなさが残った。


そいつは今、何をしてる?

それから、こいつは誰を思ってヤろうとしてるんだ?

さっきの奴らの中にいるのか……!?

「あッ!」

突然胸にぬるりとした感触が来た。


「女みたいな声…。いっその事、女だったら良かったのに…な。」

本当に女みてぇ、羞恥で顔を赤く染めた。

坂田は俺の胸の飾りをぴちゃぴちゃと舐めては時々甘噛をする。

わざと音を出してるな…

「はぁッ、ひ、ひ…。」


やべぇ…本当にイイ。

「乳首で感じちゃってるなんて、やらしいね。」

「ッ…て、めぇの、せい、だ!」

快感を抑えて、言葉を吐き出す。

それでも途切れ途切れで、恥ずかしかった。

「……言ったね?」

坂田の声が変わった。

察するのが遅かった土方は、前に坂田が触れてきたのを感じ被りを打った。

「ど、どこ触ってんだッ!」

「う〜ん、土方君のペニス?」

坂田は激しく土方の前を扱いた。

「………ッ」

すぐに先走り液が垂れて、坂田の手を濡らした。

ジュッ、ジュッ、という音が耳に嫌について、土方の感度をよくさせた。
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