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□Bright!
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「綺麗だなあ…」

地元の福岡から見る星空とは違う夜空が、立向居の眠れない気持ちを和らげていた。
欠伸は漏れるものの、実際寝袋に入ると目が冴えてしまう。
最近の短い間に、一度に色々なことが起こったからかもしれない。

「…」

一人で草むらに腰掛けているのは、寂しくはないが少し心細い。
昼は過ごしやすい気温なのに比べて、夜は肌寒い風が微かに立向居の髪を揺らしていく。
近くの自動販売機で買った缶のホットコーンスープは、立向居の手に熱を分け与えたせいでもうほとんど冷めかけていた。

(綱海さん、いい夢見てるかな。)

夜空を見上げながら、好きな人のことを思った。
隣にいたら暖かいだろうか。
一緒に夜空を見られたら、同じ気持ちになれるのだろうか。

(…何考えてるんだろ。)

チラリと横目で隣を見て、一人であることを確認する。
愛しい綱海は夢の中だと言い聞かせて、コーンスープを一口仰ぐ。
背後から草を踏む音が聞こえたのはその時だった。

「立向居?」

驚いて振り向くとそこには隣に来てほしいと望んだ、綱海が立っていた。
夢かと思ったけれど、夢じゃない。
しかし綱海の表情はいつもより固く見受けられる。

「綱海さん…?」

まだ上の空で名前を呼ぶと、綱海が安心したように顔を緩めた。

「ここにいたのか。」
「あ…はい、すみません。」

ザッザッと草を踏み近付いてくる姿が月明かりでよく見えた。
月明かりだと綱海の髪は淡いパープルに映るのだと初めて気付く。
そんな綱海は立向居の口から出た謝罪に笑いを浮かべる。
触れられる近さになった時、綱海が立向居の髪をくしゃりと掻いた。

「何で謝るんだよ。」

声は明るくて安心する。
すぐに手を退けて、隣に腰掛けた綱海。
立向居の胸がドキドキと鳴っている。

「すみません。」

もう一度謝ってから綱海が笑っているのを見た。
それを見て理解して、また同じ言葉が口から出そうになった。
顔を見合せて、立向居は眉を下げて笑う。
綱海はカラッとした笑顔で歯を見せてから星空を仰いだ。

「うわ、綺麗だな。」
「そうですよね。」
「沖縄の空と変わんねぇくらいだ、でも」

途切れた言葉の先を探して綱海を見る。
昼間のような笑顔が立向居に向いて、声が響く。

「こっちの方が綺麗かもしれねぇ。」

その笑顔にドキッとしたのか声がドキッとさせたのかは立向居には分からなかった。
結果的には脈打つ速度が上がった心臓と、同調してきっと頬は赤くなる。

「俺もそう思います。」

慌てて星空を見るふりをして、手に持つ缶を握り締めた。
温度がないように思えた缶は立向居の手の熱を受けている。
綱海が、立向居の横顔をチラリと盗み見た。

(…かわいいな。)

大きな目は星空を見ているせいかキラキラと輝いている。
見惚れるようなその横顔が、スローモーションのように綱海を見た。
目が合った瞬間の、胸の響きはきっと共通だった。

「…」
「…」

互いに見つめ合い、綱海が先に立向居との距離を縮めるべく地に手を置いた。
立向居もそれを理解して、瞼をそっと下ろす。
触れ合う予感が、二人にはあった。

「綱海ーっ?」

唇が重なる寸前に、聞き慣れた声が二人の耳に入った。
ギクリと停止する二人。
動かなくなる二人の体は、視覚で円堂を確認する前にもとあった距離を作ろうと瞬時に反応していた。
草を踏む静かな音が止まったのは、円堂が二人を見つけたのと同時で。

「綱海、立向居も…どうした?眠れないのか?」

にこやかな笑顔が月明かりに眩しい。
不自然な二人の距離に気付かないまま円堂はそう質問してきた。
えっと、と立向居がどもると、綱海が口を開く。

「ちょっとな。でももう寝ようぜ、立向居。」
「あ、はい。そうですね、明日も特訓だし!」

慌てて立ち上がり向き直ると、円堂は満足げに「ああ、じゃあキャラバンに戻ろう」と背を向ける。
大人しく付いて行く二人はそっと視線を合わせて、眉を下げながら微笑み合った。
綱海が円堂に視線を戻したのを見て、立向居もそれに倣う。
欠伸を左手で掴む円堂はキャラバンの方向しか見ていない。
それをいいことにそっと手に触れてきた綱海の温かい手に、立向居は綱海を見た。

『つ、綱海さん…っ』

小声でそう叫ぶ間にも手を握る力は強まり、缶で温まりきらなかった手に熱が集まっていくのが分かる。
ニ、と口角を上げて、綱海も小声で言った。

『キスの代わり。』

これ以上の言い合いは勝てそうにないと思った立向居は、口を噤んで円堂にバレないかと不安げに見る。
けれど意識は全て手の温度に持っていかれていた。
ふと見上げると、キラキラと輝く星空。
その星空が気持ちを落ち着かせる。
手に感じる確かな体温が、こんな夜もたまにはあってもいい、と思わせたのかもしれない。
立向居がそっと綱海の手を握り返したことは、綱海の驚く顔を見れば星空のおかげだったと分かったのだった。







Bright!
(直視できない、そんな眩しさ)




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流真紅ハズキ様より
サイト6万HITの際にリクエストし頂きました。
円堂+綱立です!
素敵すぎるvvキャプテン!タイミングがめっちゃ良いです。
流石です!





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