book11-2

□一時だって離したくない
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『嫌いだ』

用があって家の前まで来て、出てきたと思ったら
そんな言葉をいきなり吹っかけられた。
固まって、困惑してる俺を余所に
何事もなかったように横を通り過ぎていく。
去って行かれる前に腕を思いっきり掴んで身体を引き寄せた。

何がどうしてそうなった?

何かしたか?

喧嘩だったら毎回の如くする

けど、今言われた“嫌い”の感じが全く違うから
いつも以上に不安になった。

引き寄せた身体を向かせると
顔を見せない様にしようとするから無理やりにでも
俺の方を向かせようとすると、そこに現れたのは
真っ赤に染まった頬といつも以上に吊り上った眉毛。

「えっと…アツヤ…?」
「だぁぁ!!!お前なんか嫌いだぁぁ!!」


唖然としている俺を無視してそのままどっかに走り出して
目の前から姿を消した。
残ったのは、俺とアツヤに渡そうと思ってた物を入れた
紙袋。

暫くして、先程のアツヤの大声に気づいたんだろうか?
中から兄の士郎が出てきて俺を見た
瞬間に怪訝な顔をして
玄関から一気に走りこんで
俺の腹に向かって飛び蹴りを繰り出してきた。

生憎、さっきのアツヤの事もあってか
瞬時にかわせる筈も無く
もろに腹に食らい地面に倒れこみ
士郎を睨みつければ
皇子と呼ばれる表情とは違う笑顔がそこにはあった。

「ねぇ。さっきのアツヤの叫び声、何かなぁー?また何かしたのー?
ホントに南雲君は僕を怒らせるのが好きなんだねぇ〜」
「お前には関係ねぇーだろうが」
「えー。アツヤのお兄ちゃんだし。やっぱり心配はするでしょ?
変な人に変な事されてないかとか?変なチューリップに付きまとわれてないだとかー色々」
「オィ!!なんだそりゃっ!!!」
「ちがう?最近逢わなかったみたいだしーて言うか会うのも久しぶりだよね?
人それぞれだと思うけど……ふざけないでよね?」
「っー!!!うっせぇ!関係ねぇーって言ってんだろうがぁ!」

「わっ!………ホント、不器用なんだからさー…」



正直、それは言われたくない事だった。
確かに最近会えないことが多くて珍しくこんな紙袋を持って来たのだって
ちょっとした事があったからだ。
士郎を振り解いて、アツヤが駆けて行ったであろう方向へと足を運んだ。
あいつが行きそうな所…兄貴の所じゃないとすると
最悪、腐れ縁の二人の所の可能性も出てくる。
そうじゃなかったら……帝国のモヒカンかGKのどっちかだろうな…

(あ。ちょっとムカついてきた…)

多分きっと自分は独占欲が強いと思うんだ。
それは、アツヤ限定な気はする。何しろどうしたって離したくはないんだからな。
ホントに今浮かんだ奴らの所には行って居て欲しくはない。
そう思いながら探してれば、河川敷の方まで来てた。
此処はたまに来てるよなーなんて思いながら、周辺を見渡せば
見知った双葉が見た。
拗ねたように体を丸めて…否、きっと拗ねてるんだろうけどな。
また、逃げられない様に気が付かれない様に近付いて後ろから
抱きしめる様にして声を掛けると思いっきり肩がはねて情けない声が零れた。

「なーに拗ねてんだよ」
「っ!す、拗ねてなんかねぇーもん!!」
「じゃあ、何なわけ?」
「べ…つに」

(別に…何て表情してなかった癖に…。)

後ろから抱き締めて頭を撫でながら
小さな子供をあやすように言葉を紡いでいく。
アツヤが今こんな状態であるのは完全に自分が原因だと思う。
此処の所、会いに行く事も最悪メールや電話をしたり
それすら出来ない状況が続いてから何を言われても仕方ないってのはあったりする。

抱き締めても未だに拗ねているアツヤに正直に悪かったと声を掛ければ少しだけ振り返って小さく馬鹿と呟いた。

「ごめん…」

「一人にすんじゃねぇーよー!
離すんじゃねーよ馬鹿ぁぁ!」
「ほんとに悪かった…
だからな、これで許してくんね?」

アツヤの耳元で、そう呟いて抱き締めたまま持って来た紙袋をアツヤの前に差し出した。
不思議そうに首を傾げるアツヤを余所に
その紙袋中からリボンの掛かった小さな箱を取り出してアツヤの掌に乗せた。

「…何だこれ……?」
「開けてみ」

言われた通りにアツヤの指先が箱のリボンをほどいて箱の中身が見え始める。
箱の中から出てきたこれまた小さな入れ物を取り出すと、それを持ったまんま俺の方に視線を向けて不安そうな恥ずかしそうな微妙な表情を覗かせた。

「晴矢っ!これっ」
「ん…ガラじゃねーのは分かってんだけどさ」

俺の前に差し出された其れを開ければ
出て来たのは二個の指輪。
サイズは大して変わらないと思うから見た感じ然程差はない。
それをひとつとアツヤの左手を取って指輪を薬指に嵌め指輪に軽く口付けを落とせばそれを見て更に赤く染まっていくアツヤの顔。
それを無視して、もうひとつの指輪を自分の左の薬指に嵌めるのを見せてアツヤの額にキスをした。

「っ〜!!!!」
「これなら離れてても離れねーだろ?」
「おまっ!!恥ずかしい事すんなっ」
「はっ、流石にクサイよな…これ」
「そーかもなっ!でも、ホントに離さね?女々しいとは思うけどさ…」

不安そうに聞いてくるアツヤを見て
その言葉に思わず吹き出すくらい笑いそうになったけど堪えて
さっきよりきつく抱き締めると耳元で絶対だと言えば恥ずかしそうに満面の笑顔で笑いながら抱き締め返された。




絶対、この手は離さねーよ。








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happy&smile
企画様に参加させて頂きました〜。
題から少しだけずれてる気はしますが…
変に甘く、ベタだな…何て思いながら
書かせていただきましたー。
参加させて頂きありがとうございました。




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