book11-2

□『月が綺麗ですね』
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『月が綺麗ですね』



そう、ある偉人が訳した言葉があった。
それは、その時代を表しているようで
この国を表しているようで、趣のある言葉だった。
その意味は現代では下手したら簡単に口に出せるような言葉。
だから、その偉人の逸話を目にしたときは
柄にもなく、関心と言うか…ああ、ここでよかったと、そう感じてしまった。
別に嫌なわけではなく、いい意味で。

そんなことを思っていたらいつの間にやら本日の授業は終わりを迎え、放課後の時間になっていた。
目の前の教科書を閉じて、鞄へと放り込む。
そうしていつものように、少し離れた教室へと向かって足を運ぶ。

「アツヤぁー?」
「ん!晴矢、もう終わったのか?」
「おぅ!帰るか?」
「ちょい待ってろ!」

そう言って急いで机の中身を鞄の中へと詰め込んでる。
勿論、全部ではないけれど。
明日、必要な分は中に残して帰る。
そうでもしないとこの上なく重いため面倒で堪らない。
しばらくすると目の前にアツヤが立っていた。

「大丈夫だぞ!」
「じゃ、行くか…そう言えば、吹雪のヤローは?いつもぶっ叩いてくるのに」
「あぁ、多分、文化祭の準備だと思う。帰りは一緒に帰れないからって言ってたし。しばらくはそうかもって」
「そっか、文化祭に感謝だな〜」
「何だよそれ、兄貴に言うからな〜」
「言わなくて良いっての!てか、言うな!」

“言うわけないじゃん”と、いたずらを成功させた後みたいに無邪気な笑顔を向けてくるものだから
当然、怒る気もなくなり一言声をかけてから帰路につくことにした。
靴を履いて校庭に出たときに、ふと、空を見上げればまだ光を纏っていない月が目にはいった。

「なぁ、アツヤ…『月が綺麗ですね』」
「ふぇ!?……それって…今日の?」
「あ、そっちのクラスでもやったのか?」
「まぁ…現国あったし…」

知ってるとわかった瞬間の恥ずかしさは半端ない。
一瞬にして、顔の温度が上がっていく。
何て言ったらいいかもわからずに
ただただ、口を閉じてしまった。
しかも、顔を見ないようにしたものだから
少しだけ気分を悪くしたのだろうか、そのままアツヤは先へと歩いていった。
急いで追いかけようとして駆け寄ってみるも反応はない。
ただ、歩くだけだった。

ふと、視線を落としてみると、あることに気づいて顔が緩んでいく気がした。
いや…絶対、緩んでる。

「アツヤ…耳真っ赤…」
「っ−!だ、だって仕方ないだろ!あんなっ!!聞くたびに恥ずかしくなっちまうだろ!」
「大丈夫だって、もう言わねーし」
「?」
「だって、そのまんま言った方が良いだろ?『あいしてる』って」

いってる自分が恥ずかしい。
でも、回りくどいと言っては失礼だけど
そのまま伝えた方が好きだと思うし。
自分達にはお似合いだ。

「っー!!!こんのっばかぁぁー!!」

顔を真っ赤にして叫びながら走り去ってしまった。
その行動に唖然としながら急いで後を追う。
一応、FWなんだからなめんなよ!と思いながら。
早く早くこの腕で抱き締めてあげよう。






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