book11-2

□八夜の願い
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ジリジリと熱が降り注ぐ7月。
例年の如く地球温暖化のせいで気温は上がる。
もう既に30度を越える地域が出てきている
此処も例外はなく、朝の筈なのに暑い。
晴天が空に広がる、夕方には雲に覆われるだろう
その癖…雨は降ってこない。
昨日がそんな感じだった。

7月7日。
七夕。

子供たちと笹を用意して願い事を書いて飾ったりして晴れたらいいな。なんて言ってたら残念なことに曇りになっちまった。
それでも、お願い叶うよね!と言う子供たちに大丈夫だと声をかけて、その日は楽しんだ。
けど、肝心の自分の願いなんてひとつも書いてない。
皆で一枚だよ、必ず書くように。
なんて言われた俺の紙は白紙だ。
七夕は過ぎた。効力は消えた。
書いても仕方ないし願うとは思わないから
書かない。書けない。

(逢いたいとか…今更だし)

白紙の紙を見ながら考えては見る。
一層の事捨ててしまおうかと思った
そんな時に後ろの扉が開いた。

「あれ?晴矢、早いね〜どうしたの?」
「ヒロ、ト!!……いや、別に……ちょっと」
「ふーん…あれ、晴矢、それ短冊の?」
「あ!いやっ!!」

何書いたの〜?とか言いながら楽しそうに近寄ってくるヒロトをかわそうとしたものの見事に捕まり手に持っていた短冊は奴の手に渡った。
その白紙を見て、俺の顔と紙を見比べて納得したような表情を浮かべて
何だか腹が立った。分かったんだろう。
白紙の意味と、俺の願いが。

「書かないの?」
「なんで、もう無理だろ…」

七夕は過ぎた。
願っても仕方ない。
会いたいやつは、もうこの世界にいない。
目の前で消えていった。
望んだことだって分かってる。だけど
悲しくて苦しくて抱き締めたくなる触れたくなる。
そんな事を何年思っていくんだろうか。

「七夕ってさ、まだあるんだよ」
「はぁ?だからなんだよ?願い事書いたって…」
「まぁ…そうかもしれないけどさ、願うだけなら良いんじゃない?もしかしたら、想ってくれてる。って感じてもらえるかもね因みに旧暦の七夕は8月13日だからさ…部屋にでも飾っておいてみれば?旧暦の方が見えるみたいだよ」

そんな事をすらすらと並べて部屋を出ていった。
遠くから子供たちの声と瞳子姉の声が聞こえる。その中には聞き覚えのある声が数人。
未だに照り付ける太陽を見ながら考えを巡らす。
この紙に書いてもいいんだろうか?
願うなんて期待もしてない、だけど…
どう言うわけだか、さっきのヒロトの言葉に妙に納得してしまった。
願うだけなら、届いてくれるなら…。と


部屋を出て自室に向かう。
机の上に置いてあるいろんなものを端に追いやってペンを探す。
見つけたペンで白紙の紙に書きたかったことを綴ると既に通っていたリボンをデスクスタンドの端に結ぶ。
ぶら下がった紙にただ一言の願い事。


織姫と彦星みたく逢えることは望まない。

けれど、せめて少しだけでも届いてほしい


そう願う。








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