book11


□Sea
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静かな振動が夢から現実へと引き戻した。





着信があったのは10分前。
それから5分もしない今現在。

連絡が入って目が覚めて
即座に支度を済ませて扉を開ける
そこから蒼が広がる。
此処から目的地に着くまで15分も掛からないだろう。
寧ろ…見えている時点で着いたことには
変わりないのかも知れない。

支度を早く済ませた割にはゆっくりと
景色を眺めるような歩幅で歩く。
別に早く来いと言われた訳ではないし。
だったら着くのを楽しみながら行く方がいいだろう。
それに何かを買っていこうかな?
お腹空かせてたら大変だし…。
そう思って近くにあるコンビニに立ち寄って軽食を少し。
そこを後にすればまた、ゆったりと足を進めて
目的地付近へとたどり着く。

砂浜に打ち寄せる波と風が運んでくる潮風
と…そこにメールの主が波に楽しそうに乗っている。
その姿に顔が緩みそうになりそうに
なりながら彼の元へと歩みを進める。
すると気が付いたのか波からおりて
少し駆け足でこっちに向かってくる

「勇気〜!!!」
「ちょっ!そのまま来ないでくださいっ!!!濡れてますよっ!」
「いーじゃねぇーかよ〜」
「良くないです!」

咄嗟にその場から後ろに下がり
浜辺に放り投げてあるバックまで逃げる。
その間にも名前を呼びながら
何で逃げるんだよーと不機嫌そうな顔でついてくる…。
そして。
そのバックからあるであろうタオルを取り出して…

「これにでも抱き着いてて下さいっ!!」

顔面に投げ付けた。

「ぶっ!ちょっ…ゆーうーきー!!」
「拭いてくださいよー…じゃないと俺は帰りま〜す!」
「えっ!マジかよっ!!」
「マジです」
「あぁーもー待てよ!」

後ろから聞こえてくる声を無視し
すたすたと砂浜の上を歩く。
手に持った袋をぶら下げたまま歩く
ホントに帰る気は更々ないので
それほど足取りは早くしないで
それでも、後ろから聞こえてくる声は微かながら
焦りを含んでいるように感じる。
と、
突然身体に衝撃が走って前方にダイブ。
幸い砂は固くなかったから
怪我をせずにすんだ…が…。
後ろを向くとピンクのもさもさ頭。

「綱海さん………痛いです…」
「お。わりぃ!わりぃ!でも、勇気が行っちまうのが悪いんだからな」
「俺ですか…?濡れたまま抱き着こうとしたのは誰ですか……?」
「いーじゃねーか。それくらい勇気に会いたかったんだし!な。」

そう言いながら笑うから
思わず赤面するし、許してしまいたい
なんて思うのはいつもの事。
それに溜息をついて仕方ないななんて。

「綱海さん。まだやりますか?それとも休憩にします?一応ご飯買ってきましたけど…」
「んー…休憩すっかぁー…あ。なぁ今度、勇気もやってみるか?教えてやるからさ」
「ぇ…はい!じゃあ今度。」
「おぅ任せとけ!」

砂を払って起き上がりながら、そんな約束をして
砂の上を二人して歩き出す。
来る前に買ったご飯は潰れてないだろうか?
なんて頭の隅で考えながら。


晴れた空の下で


青い海の漣と


二人の歩く砂の音と


笑い声だけが響き渡っていた。








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