book11


□もどかしい距離
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ゆっくりと、でも繊細にリズムを刻む。
開けた窓から入ってくる風は心地よく頬を撫で
緩やかにカーテンを揺らした。
目の前にある本を一頁めくると同時に
携帯の着信音が部屋に広がった。
手を伸ばして開いてみるとディスプレイ画面には
遠く離れた愛しい恋人。

「もしもし」
『あ。…久しぶり』

そんなお決まりの言葉を交わして
二人して笑いあった。
何時もはメールなのに、何故今日は電話?
そう、思ったものの声が聞こえることには変わりなくて
自然に笑みが零れたのだ。

「どうかしたのか?珍しいじゃないか?」
『別に、大した用じゃないんだけどな…』
「ん?」
『…声が…聞きたくなっただけで』

それは、果たして“だけ”で済まされない
と思うのだけれど?
それに、少し声の感じが落ちているのは
気のせいじゃ無いだろうな。
多分…
きっと二人して同じ気持ちなんだろうと。
この距離が縮まれはどれほど嬉しいか。
今は感情だけで動けないのは分かってる
つもりなんだけどな。

(歯痒くて仕方ない)

もう少し…成長したのならば縮まるだろうか?

「雄…寂しかった?」
『なっ…ちがっ!…只、昨日…立向居が
“綱海さんが来て大変だったんですよ〜”
とか言ってて…それで…』

(あの馬鹿っ!…見ないと思ったらっ)

そう言った後にはもごもごと何かを
言いたそうなのを押さえ込むようにして
口を閉ざした。
隣に居て、手を伸ばして
抱き締められたのならどれ程良かっただろうか…。
それでも…

「寂しかったら…電話位構わないよ」
『ぇ…それじゃ迷惑だろ?』
「いや、逆だよ…俺だって嬉しいし」
『……ありがとな、楽也』
「あぁ」

この離れた距離はどうしようもないけれど
それでも、寂しくなったら声を聞くぐらい
構わないだろう。
絶対に逢えないわけでもない。
只…
この距離を埋めるには少し時間が掛かりそうだけど。

あぁ。
本当に


もどかしい距離だ。





(…綱海の奴、戻ってきたらメニュー増やしておくか…)

(ぶぇっくしゅん!………寒気がっ…)












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