蒼い少女紅い林檎

□特技なし
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お話を考えるのも大変だが、「絵」を描くのが大変なのだ。
私は絵を描くのは好きだけれど
美術はいつも5だったけれど
漫画の絵はそんなに上手ではない。
ペン画はとても難しいのだ、、、。
実は、マーガレットに入賞した時は、大学合格より嬉しかったのだ。
A子やB君の気持ちがよく解った。
負けたくない。

友達と言えるような間柄ではなかったが
A子ちゃんからは時々海外から手紙がくる。
彼女は思いきってバレエ学校に留学し、今は有名なバレエ団の研修生として頑張っている。
プリマ。一握りの存在目差して。
「優梨子ちゃんの夢は漫画家になる事だったのね。意外です。ジャンプはこちらでも人気です。優梨子ちゃんも頑張っているのね。私も頑張ります」
B君はやはり今、海外の音楽院のディプロマコースに通っている。中々、コンクールに入賞するのは難しいようだが、彼は果敢にチャレンジを続ける。
B君からも年に一度くらい、メールがくる。
「青木さんも頑張っているんだね。青木さんが漫画家なんて意外だったけど、君はどこか内面に強いものを秘めたような人だったから、何かやる人だとは思っていた。僕も頑張るよ」

私はなんでもソツなくこなしてしまう、らしい。
だから、特技、と聞かれたら、とりたてて「なし」としか言えない。
私がなんとなく通りすぎてきた世界に、情熱を込める人がいる。
、、、その道はその人たちのもの。
私は
漫画が好き。
漫画を選んで、自分が不器用だと知り、努力するしかない事も知った。
私は漫画が好き。
この道を選んだ事を後悔してはいないし
全ての道は、漫画に通じている、と思う、、、。
悔しさ、という言葉を教えてくれた漫画が、
私は好きである。


恋愛漫画の読み切りも描きあげた。
学生で週間連載していた時より、時間があって
物想う時間が増えた。
、、、そうだ、、自転車買おうかな
自転車は今、ブームだし、体にもよさそうだし、気分転換にもなりそうだ。
福田さんのお気に入りのバイク屋さんの隣がサイクルショップで、あの店長さんは優しそうな人だった。
私はサイクルショップに出かけて、店長と相談していた。
後ろから大きな声。
「!!」彼は原稿を描きあげたのだろうか、、彼も本当に努力家である。
なんとなく、見られたくなかった、、、。
「蒼樹嬢珍しいな!、、あんたブームに乗って自転車買うの?」
「エコですし」
福田さんは笑った。
「まー蒼樹嬢にはレーシングタイプなんてにあわねーよ!なあ、店長!」
店長さんが曖昧に笑う。
「バイクも男の浪漫だしな!」
私は少し、悔しくなる。
「バイクだって乗れます!」
福田さんは意地悪く笑った。
「免許持ってんの?」
「、、普通免許です」
「原チャリ乗るか!?」
福田さんが笑った。
「、、、免許とります!」
福田さんは真面目な顔になりバイク語りを始める。
「あのなあ、、バイクって自分で起こせなきゃ話になんねーの!あんた、見るからに非力だろ?」
福田さんは知らないのだ。
私がどうやって、この体型を維持できるのか。
遅くなって大きく重くなった胸を支えるのに胸筋がいかに大切で、私が毎日鍛え続けていたのを。
「意外と力持ちですよ、、」
「へー」福田さんがバカにしたように笑う。
「免許とってみせます!次の連載とる前に!」
「またまたムキになっちゃって、、やれるようならやってみな!、、それより漫画描け!」
「お互い様です!」
福田さんは、それから、私にも乗りやすいような中型のバイクのリコメンドを始めた。
ああ、この人の情熱ときたら、、、。
漫画、とバイク、には、凄く情熱をかけているのだ。
私はこっそり
大型免許をとって
福田さんを驚かそうかしら。
なんとなく、楽しい。
福田さんは最後に呟いた。
「、、バイク乗る女もカッケーけど、、あんたは後ろに乗るほうが似合うんじゃね?」
なんだか顔が熱くなる。
んもう。
福田さんたら。
「じゃ、家まで送ってください」
スルッと言葉がでる。
福田さんだと、なぜ、なんでも言えるのだろう?
、、なぜ自然に甘えられるのだろう?
「弟子のくせにずうずうしいな!しゃーねえ!」
そうして福田さんはバイクに乗せてくれる。
体に風があたって気持ちがいい、、、
青葉がキラキラ、なんだか眩しい。
福田さんも漫画バカ。
きっと特技は、バイクなんだろうな、、。
、、、私は、、特技、はとくにないな、、、
ただの漫画バカだから。
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