蒼い少女紅い林檎

□ロンド
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私はマイセンのティーカップを大切にしています。
ソーサーは五弁の花びらのような形で、カップも五弁の、チューリップが開いたような形をしています。
白地に蒼い縁取りだけがあり、ソーサーに一箇所、カップの正面に一箇所、あとカップの裏に剣のマークが入っています。
新茶のダージリンはゆっくり開くので、
そうっとそうっと
緑の四つ葉のティーコゼーをかけながら待ちます。
紅い、マスカットの香の液体を、私は注ぎます。
私は、このカップが大層、気にいっている、、、。
何年も一人暮らしをしてきました。
一人ぶんの紅茶をいれるのは、難しいのです。
この、二年余りは
楽しく、皆さんとお茶を飲んでいました。
こうしてまた、一人ぶんの紅茶をいれるのって
なんて寂しいのでしょう。
私は、ここ二年余り、幸せでした、、、
今、一人になって
前は一人ぼっちでも
全然平気だったのに
、、、一人ぼっち、が淋しくてならないのです。
こんな弱気になるなんて、、。
私、は、もっと強いはずです。
最後の雫がポットの口からカップに落ちるのを見つめていました。
せつない、ファンタジーな恋を描こう。
住む世界が違う、二人の恋を描こう。
どうやって膨らまそう?
、、、私は片思いで、好きな人に好きとも言えないの。
だってとても恥ずかしくて
好きな人には、いつも振り向いてはもらえない
好き、て言ったら、この関係が壊れてしまう
友達のままでいい
私はどうせ片思い、の女の子なのだから
切ない想いを、思いきり描こう。
白いカップ、蒼い縁取り、中は深紅の熱い紅茶。
一人ぼっち、て
淋しくて
こんなに辛いものだったのかな
つい何ヶ月か前までは
楽しい仕事場だったのに
女の子同士で
いろんな話して
とっても楽しかったのに
皆で楽しく仕事している、そう思っていたのに
いつも笑顔が零れていたのに
一人ぼっちじゃ笑えない
部屋が急に広く感じて
私の愛しいもの達も
この二年間に貰った贈り物も
なんだか寂しさを深くするみたい
また、
窓を開けてベランダに出よう
寒い北風が入って来るけど
電話、が
かかってくるといいな
あの人からの
励ましの電話が
優しいはずの、あの人が
きっと、電話をくれるから、、、
公園、を見ながら
待っています、、、


「存在証明です」
優梨子は真太に言う。
「三年前まで私は一人ぼっちで仲間もいませんでした。、、、福田さんが仲間にしてくれて、今まで生きてきて、一番幸せだった」
真太は何も言えずにいる。
「あの時は上手く言葉にできなかったけれど、、可哀相な平丸さんの孤独な姿と正直な言葉を聞いて、私の心は動きました」
「ふーん、、、」
「私なんかと居て、幸せ、て言ってくれる人は平丸さんしか居ないんです」
真太は、酷くこの女は孤独だったのだ、と今更ながら思った。
、、、俺は何がしたいんだ。
成功したいんだ。
自分の存在証明とはなんだろう?
この女は、自分が仲間にしてやって、仲良くなったのが、幸せだった、と言っている。
自分の存在、とは何なのだろう?
この蒼樹紅という存在は自分にとって何なのだろう?
触れたら全てが終わりな気がして
純粋すぎて
綺麗すぎて
、、知れば知るほど、レッドゾーンにはまってしまいそうで
きっと、恐かったのだ。
、、、女は恐ろしいものだ。
親父が言っていたからな
本当は守ってあげたい
孤独で
弱くて
誰より優しい女だ、と
知っていたはずなのに
自分も幸せだったのだ。
真太はようやく気がついた。
ヒロインみたいな女の子
誰もが振り返るような女の子
そんな女の子と
いろんな話して
ただ、それだけで幸せだったのだ。
漫画バカ同士で語り合って、幸せだったのだ。
ずっとずっと、幸せだったのだ、、、
「俺って、、バカだよな」
「漫画バカです」
なんでも言いあってきた。
いろんな話したけれど
一番大切な事を忘れてたのじゃないか
真太は思う。
「存在証明、か、、俺も幸せだったよ」
真太が言うと
優梨子は
少し冷たい声で言う。
「貴方は、応援していました、、いつも貴方はそんな人ですね、、お節介ばかり焼いています」
二人は、
決して
本当に本当の
大切な想い、を言うことはできない。
多分それは、、、
何かの呪いにかかっているのだ。
中井さん、が置いていった
中井さん、の手紙の中に
呪い、が、かかっていたのかもな。
真太は、ひっそりと
そう思った。
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