福田くんの受難

□クリスマス後夜祭金のペン銀のペン
2ページ/2ページ

「お、お邪魔します、、、」平丸さんの声がした。
「まあ。凄く寒そうです」嬢がさけんでいた。
「おお、何といういいかほり、、、」嬢がドアを開けて平丸さんを招きいれたようだ。
「ひぃぃぃぃ。ここは仕事場ですかっ」
俺がびっくりしたのは凍えた平丸さんの手を嬢が暖めるようにして握っていたことだ。いや、逆なのか。うん、逆だよ。離せよてめえ。よくわからんが腹がたってきた。
「ふ、福田くんっ、君もいたんですかっ」
「残念だったな平丸さんあんた便乗だよ」
俺は毒づいた。
平丸さんがあんまり寒がっているから嬢は電気毛布を取り出してきたぞ。でも嬢の手を握っていた時からもう充電されていたみたいだけどな。
平丸さんには湯気がたちのぼつて熱々そうなスープとやっぱり熱々なおしぼり。
平丸さんは案外上品にスプーンでひらり、と召し上がる。
ん、俺の時スプーンなかったんじゃ、、
「どうでしょうか」と嬢がまたまたローストビーフ(まだあったのかこの野郎)を運んできた。
明らかになんとかクラブを連想してる目でラッコが嬢を見ているぞ。
気分がなんだか悪くなる。
平丸さんはスープを食べ終わると出された白いナプキン(これも俺にはなかったような、、)で口を拭いた。
「五臓六腑に染み渡ります、、、」と感無量の極み、とでもいうように呟いていた。そんな平丸さんを嬢は優しく見つめ、
「平丸さん食が細そうです、無理しないでくださいね」なんて言う。
「蒼樹さん、なんて優しい、、蒼樹さんのつくったものならなんでも食べます」ラッコはシャキーンと完全復活した。
「今キッシュを焼いています。ほうれん草が入っているので体にもいいですよ」
なんだよ。ラッコには追加オーダーかよ。
ラッコは、と見ると駄目だこいつ、目がマジハートだよ。
チン!と音がして嬢が席を立った。
「はい」と焼きたての丸いパイみたいなのを嬢が両手に鍋つかみをして持ってきた。
なんか可愛いナ、、、(クソ)
その固まったクリームシチュー的なものをもちろん俺も食った。熱かったがラッコに負けられるか。
ぐぐぐっっっ。
「あら、福田さん、大丈夫ですか、、お水持ってきましょう」
俺は詰め込みすぎてのどに詰まりそうだった。嬢が持ってきたレモン味の冷たい水で流し込んだ。
「美味しいです、、、蒼樹さん」ラッコはもうメロメロだ。

ひとごこちついた所でラッコがそわそわ辺りを見回しはじめた。
「蒼樹さんのアルバムとかあるんですか?僕凄く見たいです」
「えっ!」
嬢が真っ赤になった。
「そんなものありません!!」
その時の目線を俺は追った。嬢のアルバムならみたいぞ。これだな、と俺は本棚からウサギ柄の布の装丁のいかにもアルバムらしいものを引き出した。
「やめてください!!!」嬢が真っ赤になって怒鳴っていたがこの時ばかりは平丸さんと協力したね。
ワクワクしながら開くと最初にどーん、と外人のおっさんと着物のおばさんの写真。
「だ誰ですか?この蒼い目のナイスミドルと吉永小百合さんのような女性は?」
「そ、それは、、おじいさまとおばあさま、30年くらい前のです」
へええええ。確かにこのおっさんはイーストウッド監督みたいでかっこいいぞ。
「あっっっ綺麗な人だ。蒼樹さんに似ていますねぇ。えっこの幼女は蒼樹さんですか!なんと愛らしい」
おおつ。俺はロリコンじゃねえけど、美人のママと一緒に笑っている、金髪みたいな頭に蒼いリボンをつけて蒼いワンピに白いエプロンのちびっこ蒼樹嬢は凄く可愛い。他にも薔薇しよってじじいと一緒に古そうな家の前で撮られたとおぼしきいかにも蒼樹嬢の幼少期にふさわしい写真がいっぱいだ。
「こ、ここはおじいさまのおうちですか?」
「コテジです。湖水地方にあります」
よく訳のわからん会話だ。
つぎのページをめくるとがらっと変わって、男の子三人で雪のなか飛び回っているような写真が何枚かつづく。雪景色の中、鶴??の群れを指さして笑っている写真とかどれもみんな凄く元気な可愛い女の子だ。
「なんだこれ?」
「小学校です。入学式です」
「並んでるの五人くらい、、ここドコ」
「標茶の分校です。」
「し、標茶?分校?とんだかっぺだな」
「失礼ですっ。世界遺産ですよ」
全く父親って何してるんだ。あぁ、この話題はまずいか。ページをラッコと一緒にめくって、う、と俺は思った。
「これ、中学だな?」
「入学式の写真です」
ちょっとむくれて嬢が言った。
愛想のない顔。でもおとなびた髪の長い美少女だ。
「なんか、初恋限定。の慧ちゃんみたいだな」と俺が言ったら
「セーラー服が初々しいです。これが中一ですかっ国民的美少女コンテストみたいですっ」ラッコが鼻息も荒く興奮していた。
「あっっ!つぎはダメです!」
嬢が手を伸ばしてきたが、つぎのページをすかさずめくると、なんとタンクトップに短パン、ゼッケンつけてクラウチングスタートの準備をしている嬢のアップの写真があった。推定Cカップである。なんか髪の長いナウシカみたいにも見えるぞ。これはなかなかいい。そのページには長い髪をポニーテールにしてなんだかトロフィーみたいなもの持っている嬢や駅伝大会の幕の下で何人かの少女とはずかしそうに写っている嬢の姿があった。
「まるでカモシカのようです、、、」ラッコの目が完全にヤバイ。
「陸上、やってたの?見えねーな」
本心からそう思った。
「道大会百メートルで中二の時一位でしたっ全国大会では四位でしたっ、、、高校では駄目でしたけど、、」だな、その胸じゃ重くて走れないだろ、、、
嬢が真っ赤になってむきになっている所をみるとどうやら本当らしい。
ページをめくるとセーラー服姿が段々と大人っぽくなっていく。今のほうがかえって子供っぽいみたいだ。
おっ、このへんで推定Eカップ、、、。しかし愛想のない美少女だな。
「あっ、ここって函館百合学園ですかっ」ラッコが邪な目で少女たちを見ている。
「函館はおしゃれで綺麗な人が多いですからね。蒼樹さんの故郷にぴったりです」
「故郷、、」と言いかけて嬢が口をつぐんだ。
釧路に函館ね、嬢はスパカツ食ったんだろうか。
「男がいるじゃねーか」
嬢の周りに制服の男ども、いや少年たちだ、が群れている。
「あ、それ姉妹校の函館ラセールの方たちです。学園祭で」
嬢が女王のように君臨している。こんな女、もとい少女は嫌いだ。好きな奴とかいたんだろうか。この見たまんまエリートどもめ。
嬢がまた騒ぎだした。
嬉々としてラッコとページをめくるとなんか凄いドレスを着て、珍しく微笑んでいる嬢だ。
「う、うつくしい、、、」ラッコがうめいた。
「これナニ?」俺が聞くと嬢は仕方ないという感じで
「おじいさまのパーティに出た時に撮ってもらいました。17です」と言った。
うう、これはいいぞ。谷間も見える。柔らかそーな白い肩が初々しい。この時点で推定Fカップか?
なんだか城みたいな所の前でやっぱりドレス来た日本人の少女三人と一緒の写真もあった。
「、、、、すげーな」
「凄いです。蒼樹さんもしかしてお姫様ですか?」
嬢は黙って答えないが、あ、今ラッコの脳内が見える。城、姫、働かなくていい王子な生活。
おっ、無愛想姫の卒業式か。髪切ってる。今と同じ髪型だ、やつぱりこっちのほうが可愛いぞ。
大学生か。じょーば、て、乗馬服きてるぞ。鞭持ってなんか似合う、、、
「えっ、何これ大会かなんか?」
「はい。一応馬術部でインカレでました」
「ん?あんた漫画家いつからしてんの?」
「高二の時です」
「はえっ!学校行きながらマンガ描きながらインカレ?てか東大?どんだけめだかちゃんなんだよ」
「少女漫画では珍しくありません」
嬢が澄ましてそう言うので思わず言わずにいられなかった。
「見せろよ。デビュー作!」
俺は嬢に詰め寄った。きっと訳わかんないの描いてるぞ。
「絶対にい嫌ぁぁ!」
「ちょちょっと福田くん、まあ人様のお部屋にあがらせて頂いて手厚いもてなしも受け手いるのに無理強いはよくないですよ」
ラッコてめえもアルバム無理矢理見たろーが
!、、ま、いーや。これ以上やると確かに失礼だ。
「あんた、中学入るまでは幸せそうに笑ってたんだな」俺はアルバムを元に戻した。父親の姿はひとつもない、、
「今も結構幸せですけど」嬢が紅い顔をしながら可愛い顔してつぶやいた。
「そっか」ならいい。

「プレゼントです」
嬢が俺たち二人に小さい包みを帰り際に渡した。平丸さんもなんか渡してたぞ。
「俺なんも持ってないぞ」と言うと嬢は
「普段のお礼ですから」とにっこり笑った。
俺は素早く耳打ちした。初詣、いこうぜ。あったかい上着用意しとけよ。

プレゼントの中身は18金のGペン先。平丸さんのはペン型のタイピンだったらしい。
、、、どっちが上なんだ。

ああ、食べ物が全部はけてよかった。あら、福田さんのおしぼり、割り箸でつまんでブリーチしましょう。福田さん足の裏まで拭いてましたし。


蒼樹嬢のマンションのある三鷹からほど近い野川に某東大馬術部厩舎があります。
裏でかいている優梨ちゃん話では英国貴族の孫として馬術を普通に嗜む嬢。
    
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ