蒼い少女紅い林檎

□動物園
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−動物園に行きましょう
蒼樹嬢から電話があった。
「何余裕コイてんだよ!俺は連載と読み切りのネーム作りで死ぬほど忙しいんだよ!」
福田はイライラしながら怒鳴る。
−全くこの女、マイペースだな、、
携帯越しにいつもの春風のような、くすくす笑いがする。
耳がくすぐってー。
いつも思っていることだが。
−そんなにガツガツしてたら恋愛漫画なんて描けませんよ、、ついでにチョコもあげます。、、どうせ誰からも貰えないんでしょ?
「うるせー!」

寒い二月にしては温かさを感じる日である。
蒼樹嬢のお気に入りは猿山。
じっ、と眺めている。
くすくす、笑い声。
「福田さんも、ここなら間違いなくボスになれますねえ」
「お?(そりゃハーレム状態だな!いや、バカにされてんのか?)おう?」
打ち切りになっても蒼樹嬢は相変わらず暢気そうだ。
「あんただって連載かかってんだろ?もうちょっと緊迫感持てよ!昔のあんた、て、もっと戦闘的じゃなかった?」
蒼樹嬢は透き通った瞳で福田の目を真っ直ぐ見た。
「私だって漫画が好きですよ。、、一生描いていたいです」
「、、、そんなにまったりしてて、競争に勝てるかよ!そもそも女なんて気楽だよな!」
蒼樹嬢は少しだけ眉をひそめた。
冷たい風が、ヒュウ、と吹く。
「セクハラ的発言です!」
そして一つ呼吸をあけて
「福田さんらしいですけどね」
福田は少し淋しそうな蒼樹嬢の横顔を見た。
綺麗、な横顔だ。
長い睫毛だ。
今更いう事でもないが
「少年漫画のヒロイン」にぴったりな女だ。
「、、私が一番です、て言わねーんだな、、勝ちたい、とか思わねーのか?」
蒼樹嬢はホウッと白い息を出した。
くすくす、、、
なんで笑うんだよ。
「勿論、頑張ってまた連載したいです。、、でも競争するのは面白いと思いますけど、勝つとか、負けるとか、そんなに大切でしょうか」
「はあ?昔とホンットーに言う事ちがうな!別人みてー」
くすくす、、
「私はいったい何がしたいの?て思ったら、漫画を描きたいだけ、なんですよ」
福田はその言葉を噛み締めるように聞く。
「俺も、そうだ」
蒼樹嬢は冬の青空を思いきりよく見上げる。
「漫画が好きで文学部行きました、、多分、競争してたんでしょうね」
「、、いい大学いってるからな!」
「少女漫画でデビューしたけど、、競争に勝てなかったです」
福田は黙りこんだ。
「少年漫画に移る時はドキドキして、、ここでダメだったらどうしよう、と精一杯見栄を張っていたのかも」
くすくす、と、くすぐったい笑い声。
「福田さん、みたいなコワイ人もいたし」
「悪かったな!」
蒼樹嬢は雲一つない青空をぐるりと見渡した。
「、、、福田さん、最初であった頃と全然変わりませんね」
「あんたが変わりすぎなんだよ!」
くすくす、、
「福田さん、が優しい、て意外すぎました」
福田は褒められて
「んなことねー!」
と照れる。
くすくす、、
笑うなよ!ったく!
「私、、」
蒼樹嬢は大きく息を吸い込んだ。
「ずっと漫画を描いていたい、、、」
福田を見つめ
「福田さんは勝ちたいんですよね」
「当たり前だ!男だったら勝ちてえ!」
小さなため息が、聞こえたようだ。
「勝っても負けても、、行き着く所は皆同じ、最近そんな気がするんです」
福田は訳がわからない、という顔をする。
「私には、私の立ち位置があって、、最近、それに気がつきました」
蒼樹嬢は何が言いたいのだろう?
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