蒼い少女紅い林檎

□王子様
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−なーんか小動物みてー
傍らで、長いまつげを蝶々の羽のようにゆっくり震わせながら寝ている女。
−安心しきってやんの
蒼樹嬢が野生の兎みたいに、怖がりで、人見知りで、でも懐くと安心しきって
−可愛いんだよな、、
つくづく、福田はそう思う。
−この無防備な所、、あぶねーなぁ
仕方ないな、
ガラじゃねーけど、俺が王子かナイトになって
、、守ってやらないと。

「お礼です」
と蒼樹嬢が言うので、なんか青山の小洒落た店で、珍しく飲んでいる。
−こんな所より、俺焼トン屋のほうがいーんだけど
「オーガニックマクロビバーなんですよ」
「ふーん」
蒼樹嬢は綺麗な指先でマティーニのオリーブをグラスの中で回している。
少し酔っているみたいだ。
「福田さんには、、いろいろ教えていただきました。本当に感謝しています」
「べ、別に、、、何そんな改まって」
「、、、福田さんでも照れるんですね」
嬢の揺らぐ瞳が真っ直ぐ俺を見る。
−当たり前だろ、、
心の中で呟く。
無防備で素直すぎる、あんた、と一緒にするなよな、、、
蒼樹嬢がマティーニのグラスを空ける。
−飲み過ぎなんじゃねーの、、優梨ちゃん
「福田さん、、、前から聞きたい事が」
「なんだよ」
やっぱロックだよな。
アルコール度数が高いほうがいい。
「、、、女性経験は」
蒼樹嬢!酔っ払ってんだろ!
俺、酔いが回ったようだ。
蒼樹嬢の瞳は真っ直ぐ無邪気だ。
−はぐらかそう
「ふつーの青年です」
蒼樹嬢の口マネをする。
「普通、とは何を基準に?」
こうなるとウルサイんだ。
もう一杯ロックを頼もう。
「、、少年はどのように、普通、の青年になるのですか」
頑固な顔だ。
キリッとして、好奇心に満ちている。
プロ意識は高いんだ、、。
「、、まーいろいろなんじゃねー?ふつーに恋愛したり、、そのう嬢に任せたり」
口を滑らした。
「、、、嬢?」
蒼樹嬢の綺麗な眉毛が険しくなった。
「嬢とはなんです?福田さん」
真面目で頑固なこいつは、食らいついたら離さない。
「まー要するに風俗嬢にデビューさせてもらうヤツもいるんじゃね?」
蒼樹嬢の眉毛がますます険しくなる。
−縦スジ寄っちゃうぜ、、優梨ちゃん、、その顔も似合うけど、、
「最低です!」
だって親父に連れてかれるんだもん。
「まさか、、福田さんもそうなんですか!?」
俺はマズイ顔をしたんだろうか。
「そうなんですね!」
蒼樹嬢の綺麗な瞳から綺麗な涙がぽろぽろ零れる。
「ち、ちがっ」
ダン!と万札置いて蒼樹嬢は席を立った。
「最低です!」
細い腕を掴もうとすると、スルリと逃げる。
追いかけようとすると、黒服に止められる。
ちくしょー!
勘定済まして急いで階段を降りて通りに出ると、姿が見えない、、、

「ここで、、」
「はい」
タクシーを降りて人込みを避けて裏通りの新宿。
何故だかぽろぽろ涙が止まらない。
人の前で泣くなんて、、。
なんて品のない事を、、。
やっぱり男性なんて
福田さんだって
、、、信じられない、、
福田さんは、、あの人だけは特別な人だと思ってた
、、本当の自分を見せられる、信頼できる、、、
私だけの、、、
王子様、、、

「何で泣いているの?」
声をかけてきた人は
少女漫画に出るような
髪の立った綺麗な顔の
王子様みたいな男性
「なんでもありません!」
顔を背けると、また涙が溢れてくる。
「お姫様が泣いているのを放っておけないな」
その人は私の肩に手をかける。
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