百年、待っていてください


□待ち合わせは、大嫌い
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−待ち合わせは、嫌いです
−我が儘な女だな

そういうと、いつもあなたは、バイクで迎えに来てくれる。

あなたの背中が、大好きだから。
このまま二人で走っていたら、世界で一番、幸せだから。
でも、そんな事、言えないの。

高速の途中で、事故を見た。
バイクが、倒れて、人はいない。
事故は何度も見てきていた。
−主よ、憐れみたまえ、
私に出来ることは、祈るだけ。

湘南の海に、来た。
まだ、人はそれほど居ない。
サーファーの人が何度も波に乗る練習をしてる。

事故を見たせいなのか、
あなたは不機嫌で。

潮の香り。
嫌いじゃないけど、私の知っている香りじゃないの。

「全くさア、最近俺をアシにしてねえ?」
あなたが、文句を言ってくる。
「待ち合わせ、嫌いです」
あなたが、面倒くさそうに
「なんで?」
と、尋ねる。
私の頬は少し紅くなったかも、しれない。
あなた、の背中、が世界で一番好き、なんて恥ずかしくて、とても言えない。

それに、もう一つ、理由があるの。
あの綺麗で可哀相なひと、の事を想うから。
悪女みたいに思われている、あの虞美人草のひと、の事を。

恋人は、待ち合わせた駅に来ない。
私は藤尾は飛び込んだのだ、と思うの。
だから、あの後、皆の前に現れたのは、あのひとの亡霊なの。
だから、あのひとの綺麗な死んだ姿は、半分、車の絵の屏風で、隠されているの。

だから、待ち合わせ、なんて大嫌い。
もし、あなたが来ないなら。
もし、そんな時が来たとしたら。

ああ、男のひとたちは、勝手に山に登って、あのひとの運命を決めてしまう。
あのひとは、好きなひとと結ばれたいだけだったのに。
あのひとは、悪女なんかじゃない、、。

「海、好きか」
あなたが、そう聞く。
「大好きですよ」
あなたと一緒なら、何処だって。
「、、事故、があったな」
私は目を伏せて、祈る。
「後ろのがあぶねーんだよ、、」
そう言うあなたの横顔は、水平線を見つめている。
普段、陽にあたらないから、少し不健康に、見える。
私はこぶしを一つ、空けた隣の砂地に腰を降ろす。
美禰子のように、ぺたん、、と。
驚いたような顔をしている、あなた。

「福田さん、、女性の覚悟、は怖いのですよ」

あなた、とだから、命懸けで、
あなた、の背中が大好きで。
虞美人草の、ひとのように、待ちぼうけ、なんて
絶対に、嫌。

少しの間、見つめ合う。
私がじっと見つめることも、恥ずかしくて、目を逸らしてしまうことも。

思いがけず端正な、あなたの目も鼻も口も、私のためだけに創られたものだといいのに。
私はあなたを百年待っていたのだから、、
あなたも私に百年従いてきてくれたら、、
いつまでも、何処までも、従いていくから、、

あなたは私をどう、思っているの?
悪女のような藤尾だと
そう思っているかしら

「待ち合わせ、嫌いなのか、、、」
「はい、大嫌い」
意地悪を言うかと思ったら、照れたように早口に、あなたが呟いた。
「俺の背中、が、いいんだな」
そう言って、また、ぷい、と私から目を逸らす。

何もかも、言葉にできない。
私は紅くなって俯くばかりで。
そうです。あなた、とこの距離が、好き。
あなたを夢中に思ってしまうと、私は藤尾に、なりそうで。
恋が実らないならば、藤尾のように、飛び込んでしまいそうで。

海の香り、て生々しい。


虞美人草を思って
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