百年、待っていてください


□君に、焦がれて
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その女は、確かに見た目は可愛かった。
いかにもお嬢様然としていて、綺麗な女だった。
都会に出て来ても未だ見た事がないくらいに。
クラスにいれば、マドンナにもなれる、そんな女だった。
でも、今の俺には関係ない。
絵のモデルくらいにはなるが、、
しかし。
ひと言口を開いたら、最悪な女だった。
プライドが、高い。
俺の作品に、有り難くもケチをつける。
そもそも少年漫画の何がわかるって言うんだよ。
あんな、少女漫画から飛び出てきたような女に。
しかも、口の軽い担当の雄二郎に聞いた所、あの女、あのルックスで最高学府に通っているという。
それだけでも糞可愛くねえ。
俺は、この仕事のためにそんなもの全て諦めてきたんだ。
どこのお嬢様か知らないが、親の臑かじりながら、とんでもなくいい学校に通いながら、漫画なんて描く必要ないだろう。
しかも相当おかたいらしく、担当に言わせれば、倫理観の塊、全く教師じゃないんだ、なんであんな女が漫画界に存在しなきゃならないんだ。
あの女を思い出す度、非常に腹だたしい。
しかし、それこそ時間の無駄だ。
考えるの、よそう。
それより、俺は成功する事だけを貪欲に考えている。
誰にも、負けない。
諦める事なんか、これっぽっちも考えない。
そんな事、心の端っこにでも浮かべさせやしない。
俺は漫画が好きだ。
漫画家として、絵がまだ下手だってわかっている。
でも、絵を描くのが好きだ。
このペンは俺の分身のような物。
絶対に、手放せない。

負け組、と思っていた中井さんがやる気をだした。
あの女のおかげであの人もやる気をだした。
どうも惚れてるらしいがな。
あんな生意気な女のどこがいいんだろう。
しかもお高くて、年だって俺と同い年だし、絶対無理なのに、おか惚れだ。
、、まあ、いいだろう。
あの女のおかげで、とにかく、やっとやる気を出したんだから。
思いきり、毒舌吐きまくった甲斐もあったって訳だ。
惨めな奴を見てるだけでうぜーしな。
ダチ、って感じではないが、仲間意識は出てきた。
絵の巧さにかけては、流石にキャリアを積んでいただけに、誰にも引けをとらないんじゃないか。
最もあのメルヘンな原作じゃ、、とも思うが、中井さんがやる気を出してるんだ。あの原作とあの女に惚れたっていうんじゃ俺が口出す事じゃない。
俺は、俺の道を行くだけ。
暇があればネームを描く。ペンを握る。
ただ、それだけ。

金未来杯を亜城木くんと同率一位だった、ということは、本当に悔しかった。
そしてその後の連載会議に落ちたこと。屈辱だ。力が、一瞬、抜けた。
亜城木くんの担当のほうが、俺のいい加減な担当より、数枚上手だ。
担当には当たり外れがあると聞いたが、あのアフロの奴は、外れかもしれない。
いや、運のせいになんて、しない。
俺はペンを走らせる。
バイクを走らせるように。
一番危険な時が一番楽しいんだ。
急カーブの前少し減速し、カーブに突っ込んだ時加速する。遠心力が俺にかかる。
その時ぎりぎりのスリルとスピードが快感なんだ。
人生もこうでなくちゃいけない。

あの女が中井さんを見捨てて、ヴィジュアル系歌手と手を組むという。
なんて女だ。
色仕掛けで落としたのか?
結果をだしておきながら、中井さんをやる気にさせておきながら、全くなんて悪女なんだ。
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