福田くんの受難

□バナナと林檎
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「欅の緑が毎日濃くなっていきます」
逆光に若葉の緑をしょって立つ嬢の横顔は、きらきら輝いて見える。
俺が一回着たアバクロのTシャツの下にボーダーのロンT重ねて、下にはなんかふりふりのスカート、こういうのも似合ってもう、凄く可愛い。
でも、こいつの胸囲って何p、、、Tシャツはちょっとヤバイかもしれない。
俺、さっきからポケットに手を突っ込んで、さりげなーく嬢に向かって肘突きだしてんだけれど、こいつは全然気がつかない。
右手にはおやつ、じゃねえバスケット。
「なんで動物園なんて来なきゃいけないんだ」
少しイラつきながら言っちまった。
「私大好きですから」
「子供かよ」
「うるさいです。福田さん」
腕を組むとか絶対にあり得ない雰囲気になりそうだ。マズイな。
平日、結構カップルが多い。学生なんだな。暇そうだな。、、、みんな腕組んだり、手繋いだりしてるじゃないか。
、、、手を繋ぐのは恥ずかしいけど、腕くらい組みたいんだ。
この前はこの腕の中に入れたのに、なんでそんな事もできないんだ。
「こっちですよー」
あいつ、足が速いなあ。
「猿山?」
「大好きです」
「え」
嬢と猿山ってイメージ合わない、、、、。
じいっと猿を見つめている。
一体何が面白いんだか。
「可愛いですね、赤ちゃんがお母さんにしっかりくっついて」
「んー」
そういえば嬢が育ったのは世界遺産だったっけ。日本のリバプールの俺とは違うんだ。
「ここに来ると癒されますけど」
「そーなの?」
やっぱりお山が恋しいのかな。
「でも飼われた動物達ってなんだか可哀想」
嬢がしみじみと言う。
「そうだな」
周りのカップルがいちゃついている。
俺の左腕はまだ突き出されたままで。
気付けよ。
「あっ!福田さん」
嬢がいきなり俺の腕を揺すった。
たったそれだけの事なのに動悸がして。
「あれがボスです」
「見りゃ解るよ、あいついちばん強そうだもん」
「ふふっ」
嬢が笑う。
う、こいつが言いそうな事解る。
「福田さんみたい」
やっぱり。
褒められてんだか貶されてんだかわかんないよ。優梨ちゃん。サルだよサル。
「京都にとっても頭のいいお猿さんがいて、ある日脱走したそうです」
笑いながら嬢が言う。
「いくつもある鍵を盗んで、みんな違う鍵なのに、ちゃんと何枚も扉を開けて出て行ったんですって」
「へええ、、あ、その話聞いたことあるぞ」
「そうなんですよ、凄いでしょう?」
「京都の研究所有名だよな」
なんだかアカデミックな会話になる。
「そういうの高木くんとか興味ありそうだな、、」
「ええ、高木さんとここでそんな話もしました」
ええっ。なんだかやけに親しげだと思っていたら、二人で此処に来たって事かよ。
「いつ、、」
「去年です」
「二人でか」
「あ、はい、、」
嬢が少し顔を紅くした。
高木くんヨメがいるじゃん。けしからんぞ。
「福田さんは動物園嫌いですか?」
「、、、どうせならライオンバス乗りたい」
「そうですね、あれ恐いですよ」
「行ったのか。本当に動物園好きなんだな」
「、、、飼われた動物を見るのは好きじゃないんです。だけど、、」
嬢がきりっと真面目な顔をしている。
やっぱり美人だな、、。
「いくつもの鍵を開けて脱走したお猿さんの事を思うと勇気が出て」
「勇気?」
「そう。私ずっと閉じこめられていたから」
「え!どこに?」
嬢がゆっくり俺を見つめて笑った。
謎めいた微笑み。長い睫毛が顔に陰を落とす。
訳がわからない、、、。

「おやつ食べましょうか」
ベンチに座りながら嬢が言う。
「サルじゃねーし」
バスケット開けると案の定バナナが。
優梨ちゃん、ちょっと俺からかっているでしょう。
「バナナ食え」
「食べられません。アレルギーですから」
「何それ?」
「知らないんですか。北海道の人は白樺アレルギーが多いので果物駄目な人多いんです」
「、、へえ。じゃこのウサギりんごも?」
「食べたら死ぬかもしれません」
え、、、、俺はまさに白雪姫が林檎をかじって横たわる姿を想像してしまった。
「ふふふ、冗談ですよ、福田さんの顔見てると面白いです」
「なんだよ、バカ」
「バカって、、、じゃあウサギりんご食べて死にます」
嬢がほっぺたを紅くして、林檎を口に入れようとする。
俺は紅い唇に林檎がつく寸前で取り上げて、食った。
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