福田くんの受難

□初めての、初詣
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初詣、、、一般常識として知っているけど行った事がないの。もともとうちはクリスチャンだし、学校もそうだったし。カトリックの神父様がおつしゃっていた。−−僕は友達に誘われたら行きますよ。ちゃんと詣でます。ただ。其処に自分の神はいないと思うだけですし、て。
本当に初めての事。福田さんと初めての事。どうしよう、、少しお化粧もしたほうがいいかしら。お化粧はお肌をかえって痛めるというし、してもなんだか浮いてしまうようで普段は余りしないのだけど。
コージーさんと会った時くらいにしてみても構わないわよね。
あったかい上着ってこれでいいのかしら?
似合うかしら、、私ってちょっと変わっているし、あの素敵だったおばあ様みたいに似合う訳ないけれど。
知らなかったけど初詣って夜行くものなのね。
一人で暮らすようになって、やっと紅白歌合戦も見ることができるようになったの。
高校三年の時は修道院だったから、大晦日は徹夜ミサで明くる元旦は聖家族祭のミサ。あとは質素なお正月だったけど、一人で暮らすようになってお節料理も作ってみたり、、でもずっと一人で迎えていたお正月だった。
今年はいい年だったわ。神様沢山の良い事をありがとう、、、。

『出てこいよ』
除夜の鐘がどっかで鳴っている。
寒いな、と思いながら俺は嬢を待った。
遅いよ。なんだよ。遅いな。
俺は嬢の部屋の前の公園を見渡した。中井さんが描いていたテーブルもある。ちょっと苦い思い出だ。
ここは夜危ねえんだ。なんで嬢はこんな所に住んでいるんだ。今だって明らかに怪しい奴が潜んでいるし、前送った時もヤンキーどもがたむろしてた。なんでこんな所に住んでるんだ?
目の前が公園って素敵です、とかってノリで部屋決めたのか?あいつ明らかに無防備だな。
「福田さん」
「おっ、えええ」
考え事していたら嬢がいきなりバイクのそばに立っている。そ、それじゃバイク乗れないじゃん。
嬢は振り袖になんかフワフワした毛皮をしょっていた。髪もアップにして、なんだかあだっぽいぞ。いつもより、三倍はセクシーじゃん、、。だめだよコレは。
「変ですか?」なんだか嬢が少し唇を突きだして聞く。
変も何も似合いすぎてるじゃねえか。
「ちっ、しょーがねーな。駐車場置かせろよ」
気のせいか嬢のほっぺたが紅くふくらんでる。
そっか、今の言い方ねえよな、綺麗だ、とかなんで言ってやれねえんだ。いや、ぜってー言えねえ、、、
「電車乗ってくか?明治神宮でもサ中野でも」
「この近くにお寺がありますよ。バスも出ています」嬢がそう言うので寺に行った。
ここ、東京?て感じの里山の中にある寺だった。
「ここは国分寺崖線と言って、ずっと小山が続いているんです」
「へええっ!」
こりゃなんだ。人だかりが出来ている寺の参道に、鬼太郎茶屋!
「凄いでしょう。目玉おやじキャンディとか売っているんですよ」嬢が楽しそうに笑っている。
こんな所があったのか!
俺はつい目玉おやじキャンディーを買っちまった。まったく楽しいぞ。
「水木先生はこのお近くにおすまいなのですよ」
俺、楽しくて興奮した。
はっ、俺もろガキみたいだな。イカン。
「ふふっ」と嬢が笑っている。
「福田さんこどもみたいです」
「言ったなこのヤロ、あんたも鬼太郎焼き買ってんじゃん!」
全くなんだよ、こんなに色っぽいのに目玉とか鬼太郎って。無駄美人だよ、このヤロー。俺も吹き出した。
寺の山門は人でいっぱいだ。遠くから賽銭を投げる。
−KIYOSHIがヒットしますように!あと、、、
自分の考えた事になんだか凄く恥ずかしくなって体が熱くなってきた。
隣の嬢は何を願っているんだろう。やっぱりマンガの事か、、、
横顔がすっきりと綺麗だ。白いうなじに淡い色の後れ毛が可愛い。ため息が出かかった。
「あ!」と見つめた先には甘酒配っている。
「もらってきてやるぜ!」
なんだか嬢に欲情してしまった自分が恥ずかしくって、俺はそそくさ嬢から離れた。たまには甘いのもいっか。これ薄そうだし、と二つもらった。
−着物モデルかな?
−撮影会?
アレ?なんか男どもが携帯を嬢に向けてかざしているではないか。
「ざけんなよっ!!」
思い切り怒鳴つたら皆散り散りに去って行った。ああ、こいつ目が離せねえ。
俺の突然の怒鳴り声に嬢が少し引いている。
理解不能、という顔をしている。なんだよ。護ってやったのに。
それでもぶっきらぼうに差し出した甘酒を俺から受け取り、
「ありがとうございます」と頭をさげる。
「、、、あったかいです」
、、、ああ、甘ったるくてあったかい。
「福田さんのお家ではどんなお正月なんですか」嬢が機嫌を直した声で聞いた。
「俺んち普通の家だしふつーに初詣行って、あと!」
「あと?」
「家族で福袋買いに並ぶんだ!」
「福袋?てなんですか?」
「福袋も知らねーのか。福袋ってのはあ、一体何が入ってているのか開けるまでわからないワクワクする袋で、、、」
「プラムプディングみたいなものですか?」
「え?何ソレ」
会話が噛み合わない。
−あの人、あの人、また声がする。
−綺麗だなあ。あの男は何?付き人とかかなあ、業界の人っぽいよね
んだよっ、誰か俺様をカッコイイとか言え!
嬢は何も耳に入らないのか、自分の事を言われてるなんてちっとも思ってないように澄ました顔して立っている。
浮き世離れしてるよな、、
嬢がじっと俺を見つめている。なんだよ、照れるよ。俺は目をつぶった。
「福田さんお着物似合いそうです」
「え?俺?」
「きっと銀さんみたいですよ」
えっ!それ褒めてんだよな、カッコイイ的な意味だよな!
俺の気持ちは確実にヒートアップした。
「あ、風花、、、」
「雪か」
嬢の見上げた瞳は不思議な色の透明なビー玉みたいだ。こんな目で見たら世界がちがうのかも知れん。妖精だって見えるのかも知れんな。てかこいつ自体が妖精っぽいし。頭の中が訳わかんなくなってきたぞ。
「帰りましょう、雪降ってきますよ」
「そだな」
バス停で降りてからどうも後を付けられている。こいつ、嬢のストーカーなんじゃ、、、
「じゃな、速く部屋入れ」
玄関まで送った俺は素早く踵を返した。
野郎、そこの公園に隠れてやがる。
「おい!お前!!」
「な、なんだよ!キミは優梨ちゃんのなんなんだよ」
学生風のヤサ男だ。
「あいつは俺の女なんだよ!二度とおっかけるな!!」一発殴った。男は逃げて行った。
本当にここに住んでいたら危ないぞ、、。
ふう、と俺はバイクをとりに行った。ヤバイ右手で殴った。
「福田さん!」
「なんだよ、部屋に入ってろって行ったよな!」
「だって!福田さんのバカ!!右手怪我してるんじゃないんですか?」
うう、バカって、、、んだよ。
嬢が俺の右手をとった。
「任せてください。アイシングとテーピングします」
こいつ陸上部だっけ。
こうして俺はまたまたあのいい香りの部屋にいた。嬢は手際よくアイシングとテーピングする。
「ふう、たいしたこと、ないみたいです」嬢がほっとため息をついた。
「大事な手ですから、、」
俺はなんだかじーんときちまって、顔がめちゃくちゃ緩みそうだ。非常にマズイ。
「帰るぜ。アザーッス」これ以上居ると危ない。今日はラッコも居ない。
「雪が、ひどくなってます。無理です。福田さん」
「いいって!!」
「ダメです!雪を侮ると大変です。スリップするかもしれないでしょう」
「だからと言って俺が此処にいる理由はねえ」
あきれたような顔で嬢が俺を睨みつけた。
「仕方ないでしょう。こんな時にバイク乗るなんて大バカです。明日は晴れると言ってましたから、雪が溶けてから帰ればいいじゃないですか!」
バカはてめーだ。男をなめるなよ。無防備なのも程がある。てか俺は男じゃないのかよ。
襲いかかる寸前だった。
「ジョジョ読みますか?」
嬢がにっこり笑った。
「お?おう」
「地下倉庫にあるんです」
すげーなこのマンション、、。
「あのー、あんた生活費とかってどうしてんの」
「あ、母の遺産をアーサーファンドに預けて配当金をもらって、あとハイドアの印税とかを個人トレードして、、ブラジルレアル売りぬきましたし」
やっぱすげえな某東大、、、。
ジョジョを十冊持ってきた。
「なんだよ。やっぱり読んでんじゃん」
「私の研究テーマが青少年文化ですから」
と澄まして言う。A4のブルーのファイルを俺に渡した。
「よろしければ、作品の参考になさってください。私の卒論ですが、青少年犯罪についてまとめてあります。大きく分けて酒鬼薔薇事件以前と以後です」
さっとめくると確かにこれは使えそうだ。概要、目的、手法、結果、社会的影響と嬢の短い辛口コメントが書かれている。
「ちっ、これだから頭のいい女は、、ま、ありがたく受け取っておくよ」
本当は嬉しかったのにこの口が。

結局俺は目玉キャンディーを舐めながらジョジョを読むはめになった。三ページに一人の割合で人が死んでいるジョジョを読む振りして、ヒカ碁完全版を色っぽく膝を崩して読んでいる嬢を眺めながら。
着物の脱がせかたとかわかんねーし。
ん、
気づいたら寝ちまったらしい。なんだか日向の匂いのする布団をかけられて。ん、昔お袋がこうやってかけてくれたっけ。日に干したあったかい布団。

「福田さん!福田さん!」
大きな丸い物体が目の前で揺れている。
うわっ!嬢の乳揺れだ!!
「初日の出、見にいきましょう!」
嬢はニットワンピに着替えて、なんだか石鹸のいい香り。マンションの屋上で日の出を見た。公園があるのが東側だった。
「東京の空って」白い息をはきながら嬢がつぶやく。
「汚いけれど、夜明けはどこで見ても綺麗ですね」
全くだ。
本当は海に連れて初日の出見せたかったんだ。
「私、初詣も初日の出も初めてなんです」
「はあ?」、、、あんた日本人かよ、と言いかけてやめた。
「私どこにいても浮いてしまうみたいで、どこにいても居心地が悪くて、、」
そんな事を言うもんだからなんだか切なくなってきた。居場所なら、あるじゃないか。
「福田さんたちと知り合えて良かったです。日本に残ってマンガ描けて幸せです」
嬢の綺麗な顔が朝日を受けてきらきら輝く。
駄目だ。俺本当にこいつを守ってやりたい。
「あけおめです!」嬢が意外な台詞をはいてチラッと小さな舌をだした。
大反則だよコノヤロー!
「あけおめ、てあんた日本一その台詞あわねーな」ああ、またそんな事を。
「ふ、福田さんに合わせたんです!」

新キャラの小百合ちゃんに振り袖着せたい。着物なんてわかんねえし俺はググッたりユーチューブしてみたりした。
げげっ、これ嬢のが投稿されている!すげえ人気でコメントにのってるじゃん、、、。
美人漫画家、蒼樹紅。

目玉は売っているけど鬼太郎焼きは知らない。蒼樹紅で検索したらいっぱい出てきてびびった。オーバチュアあげようと画策。このページも作成。嬢にいろいろ着せたいなあ。

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