福田くんの受難

□クリスマス後夜祭金のペン銀のペン
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福田くん語りです

「俺腹減ったわ、ファミレス寄んない?」そーいやどたばたして何も食ってない。
俺は蒼樹嬢を振り返った。一生懸命しがみついて背中にぴったりくっついていた頭が上を向くと驚くほど顔が近い。寒風にさらされたせいか嬢の頬っぺたはリンゴのように紅い。
やべえ、可愛い。
「食事ですか。なら、うちに来ませんか。」
「ええつ、いいのか」
「昨日スタッフさんとクリスマス会したんですけれど私作りすぎてしまって」
嬢の血色のよい可愛い(クソ)唇が動く
「じゃっ、遠慮なくっ!」
オートロックを開けて一緒にエレベーターに乗る。嬢がふふっ、と笑っている。
「男性を入れたの、初めてです」
ま、嬢はそうだろな、と俺は思いながらなんだかバクバクしてきたぞ。いかん。
「どうぞー」
部屋の扉を開けたとたんなんかいい匂い。なんだっけ、ラベンダーみたいなやつの香り。
広めのリビングは仕事部屋だ。家具はさすが乙女チックというかクラシックというか。ウサギの置物ねぇ。らしいね。
つづきのこれまた広めの寝室だ。なんか天蓋つきで白い透けたカーテンで囲まれちやっている。丸いテーブルがちょこんとその寝室にある。
「はい、おざぶとんです」
おいおいこんな所に俺通しちゃっていいのかよ。嬢はキッチンに消えた。
なんか落ち着かねーなー。きちんとしすぎて綺麗な部屋だ。しかもあのベッドが非常にヤバイ。
「お口に合えばよいのだけれど、、、福田さんはお野菜あんまり摂ってないでしょう」
白いレースのエプロンをつけた嬢が熱々のおしぼりと野菜みたいなのがいつぱい入ったクリームシチュー的なものをお盆にのせてやつてきた。
白いエプロンが似合いすぎてる。嬢の推定Fカップの胸が形よく飛び出てて俺はついイカンものを想像した。マズイ。
照れと焦りを隠しながら、おしぼりでまず顔拭いて手拭いて足の裏まで拭いてたら、嬢が可愛い顔をしかめながらボン、と肉が沢山盛ってある皿を置いた。
「スープを飲んでからお肉ですよっ」
「はい、はーい」
おっ、猫舌の俺にはちょうどいい温度。がばっと食べた。
「うめぇーーー」
心の底から叫んでいた。肉はローストビーフだ。こっちも程よくあったかい。
むしゃむしゃ食べていると嬢がサラダを持って来た。
「、、美味しいですか」
「うめえよ」
「嬉しいですっ」
嬢の満面の笑顔だ。こんな顔は初めてだ。ヤバイ可愛い。
「あ、あんた、全部つくったの?」
「はい」
「見かけによらず料理上手いなあ。あ、一人暮らし長いか」
「はい」
嬢が俺の食べっぷりを驚いたように見つめている。
「正月とかうちにかえんのか?俺もう随分帰ってないけど」
ふたりっきりでなんか気まずいと感じつつ、わざと大声を出して話したりする。ようするに恥ずかしいのか。
嬢がちょっと寂しそうに笑った。
思わず俺は食べるのを中断した。なんかマズイことを聞いてしまったのか。
「ま、まさか帰るおうちがないのーとかじゃねーだろーなー」
冗談で言っただけだ。
「無いんです」
きっぱりと嬢が答えた。
驚いて口が止まった俺を見て、嬢が慌てて言った。
「あ、たいしたことないですから。父が再婚してアメリカに行ってしまって、私は中学から寮に入って、てだけですから」
てだけですからはないだろーと思いながら嬢の俯いた顔を見つめた。長い睫毛をちょうちよみたいに震わしている。泣き出したら危険だ。なんか面白い話題、、、
「ジ、ジャンプのマンガの中で、な、何が一番面白い?」
嬢の目つきががらっと変わって、きらきら輝きだした。こいつマンガ好きなんだな。
「一番は決められませんけどリアルタイムで読んでいたのではヒカルの碁とスラムダンクです」
「おおっ」
ちょっとびっくり。
「コミックスではやっぱりドラゴンボールですっ」
「おっそっか。結構読んでるじゃん。俺はやっぱりジョジョかなーいや待て北斗の拳もコミックスで読んだけど良かったなー」(ほんとはTo Loveるだけどな)
「ひでぶ、ですね」
えっ、嬢の口から意外な言葉だ。
「バイオレンス嫌いなんじゃなかったのかよ」
「嫌いですよ」
「じゃなんで、ひでぶ、とか知ってるんだよ、てか今笑ってなかった?」
「うるさい!!」
また出たよ。でもこんな真っ赤な可愛い顔して言ってんだ。
「ほんっと見かけによらず読んでんじゃん。信じらんねー」
俺が言うと、嬢はなんだか遠い目をした。
「弟がいましたから」
いましたからって過去形なのか?
「あと近くに男の子の友達しかいなかったので少年漫画しか読んでなかったんです。少女漫画は女子校の寮の先輩に教えられて、、」
嬢の遠くを見るような瞳は阿寒湖みたいに透明で綺麗だった。
、、寂しかったんだな、と俺は思った。なんか解らんが泣きぼくろがあるだけに薄幸の人生だったのかも、、、あんなにツンケンしてたのも自分を守るためだったのかな
俺は思わず嬢のほうに近寄って抱きしめたい衝動に駆られた。なんかすげー護ってやりたい。
ピンポーン
嬢に手を伸ばしかけた時インタホンが鳴った。ぱたぱたと嬢が急いでとりにいく。俺は伸ばしかけた手を引っ込めた。
「あ、はーい。ちゃんと来客用駐車場入れてくださいね。」
嬢がにっこりと振り向いて笑った。
「平丸さんです。罰金払って今着いた所です」
「呼んだのか!」
「ええ、さっき。可哀想でしたから」
心の中でちくしょう、とつぶやいて、俺はその場にあるくいもんを全部腹に突っ込んだ。
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