12/18の日記

18:01
クリスマスのお誘い(の皮をかぶったナニカ)
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高校生パラレル小話でっす。








「いぶの予定じゃと?」

帰り際、日頃から可愛がっている下級生に尋ねられ、夜一は片眉をはねあげた。
大きな目で、ひた、と見つめる相手を見返し、ふむ…と首をひねる。年末年始にかかる冬休みは親族の集まりやら代々伝わる行事やらで忙しかったはずだが、はて、24日の予定は何であったか。
隣で靴を履き替えている幼なじみをちらりと伺うと、呆れたような視線と目が合った。

「忘れたんスか。アタシにケーキ作って持って来いって言ったクセに」
「ああ…そういえばそうじゃった。…すまんな、砕蜂。先約がある」
「……! ……っ、いえ…!」
「砕蜂サン視線が痛い痛い」

言っとくけどアタシは巻きこまれたほうっスからね、とため息をつく浦原が、腰をかがめたはずみで緩んだマフラーを巻き直す。そのマフラーが夜一とお揃いであることも、心の底から気に食わない。
何も聞き入れず噛み付かん勢いで睨みつける砕蜂に辟易した様子で、浦原は肩をすくめた。夜一も、愛し子のまっすぐな態度に苦笑をもらし、火花を飛ばしそうな瞳の前でひらひらと片手を振ってみせる。

「爺様が急に『くりすますをやる』と言い出しての」
「七面鳥とチョコレートフォンデュのタワーを手配しろって言われて、侍従の皆サン右往左往してましたよね」
「美味いケーキが食いたいと言うから、喜助を推薦したのじゃ。大量生産のケーキは口に合わんでな」
「ほらね、アタシ被害者でショ」

夜一の祖父といえば、砕蜂の一族が代々仕えている四楓院家の筆頭だ。その御人が所望しているのであれば、否やを唱えられるわけもない。砕蜂は力無く肩をおとし、すたすたと外へ向かう二人組を追いかけた。
橙色の髪のクラスメイトがこの場にいれば、この気持ちを共有できたのだろうけれど、残念ながら委員会があるらしく不在だ。明日にでも教えてやろう。きっと、わかりやすくがっかりしてくれるに決まっている。

「…ああ、そうだ」
「…忘れとった」

全く同じタイミングで先を行く二人が振り返り、砕蜂はびくりと身を震わせた。
顔を上げた先、敬愛する主人といけすかない男が、瓜二つの笑顔を浮かべている。

「25日は夜一サンのリクエストで餃子パーティーするんスけど、砕蜂サンもウチ来ます?」
「包子も餡まんもあるぞ。…そうじゃ、帰りは大回りして、駅前のツリーを見て行っても良いな」

「…え……?」

言われたことを脳が理解するまで、呼吸が止まった。
25日、ということは、つまり。

「暇なら来い。…中国茶は、砕蜂が淹れたものが一番美味いからの」
「はい…っ!是非!」

天にも昇る、とはまさにこのことだろう。クリスマスを共に過ごすことを許された上、輝くイルミネーションを見るお誘いまで頂戴してしまうとは。
砕蜂は、何度も頷き、喜びをかみしめる。そこに余計なオマケがついていることには、目をつぶることにする。なんせ、場所と食事と名目を提供してくれる男だ。

「もー、夜一サンてばタラシこむの上手いんだから」
「うるさい。それより、一護に電話でもしたらどうじゃ」
「あ、さっき約束取り付けました」
「…相変わらず行動が早いの」
「こんな美味しいエサぶらさげて、砕蜂サンが食いつかないわけないでしょ」
「まあ、そうじゃな」


当日何を着て行こうか、贈り物は何にしようか、と頭を悩ませはじめた砕蜂は、なにやらこそこそ話している二人組に気づかない。
企み顔で笑っている浦原と夜一を目にした生徒達は気配を殺して通りすぎ、何も知らない子羊達は、当日、更なるサプライズ(という名の爆弾)を投下されて撃沈することとなる。



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