倉庫2

□拍手文
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離れて暮らす長男の食生活を心配してか、長男の料理を食べさせられている駄菓子屋の息子の食生活を心配してか。
一護の母は、隔週で二人を夕飯に招待する。

「あら、もう9時すぎ…喜助君遅いわねえ」
洗い物を終えた真咲が、ふと壁の時計を見上げた。
「ああ…もうそんなか」
母の言葉につられて時間を確認し、一護はおもむろに鞄へ手をのばす。放ったままだった携帯を手探りでつかんだ。
「メール…まだ入ってねえけど」
「今日遅くなりそうだって言ってた?」
「いや、特に…」

浦原は仕事の都合で遅くなるから、二人連れだってくることはほぼ無い。今日のように、いつも一護ひとりが先に顔を出す。
自分の都合で家を出た負い目もあり、指令がなければ一護は放課後の早い時間から実家に寄ることにしていた。
そこから数時間に及ぶ、大喜びする妹とハイテンションで絡む父親の相手。現役高校生の体力でしても、実際疲れる。
大概、一護が疲労でぐったりしたところを見計らったかのように浦原が現れ、自転車と一緒に回収して帰るのだが…今日は、いつもの頃合いになっても迎えの車は来なかった。

「連絡とれないって、不便ねえ」
「……まあ……仕事、だし」

浦原の勤め先は、携帯の電波が届かない。セキュリティのため、意図的に遮断された地下研究棟。
こちらからメールを送信しても、浦原がそれを読むのは地上に出てからだ。
でも一応、とりあえず、もしかしたらもう少しで帰れるかもしれないから、「会社出たら連絡よこせ」とだけメールしておこう。
「…日付変わる前には来るんじゃねえの」
今朝、『どんなに忙しくても、12時の鐘が鳴る前にはお迎えに参りますよン』と言われたことを思い出しながら、一護はパチンと携帯を閉じた。




「あ、おかえり。遅かったんだな」
「……」

エンジン音を聞き付け玄関で待っていた一護を見て、浦原はひとつ沈黙をはさんだ。
「ええまあ…お風呂入ったの?」
出迎えた一護は、少しだぶついた、随分とくつろいだ部屋着姿だ。髪の毛も、湿って勢いを失い、顔まわりや首筋にはりついている。
「おう。帰ったらすぐ寝られるようにって、おふくろが言うから」
「…それ、一心サンの服?」
「そ。無地だから着ないって親父が駄々こねて、1回も着てないやつ」
「…キミにはちょっと大きいスね」
「まあ、親父用のだし」
「…汗冷えて風邪ひくんじゃないですか。朝着てったパーカー羽織ってたら」
「え、やだよ。逆に汗かくだろ」
「…じゃあせめて、肩冷やさないように、乾いたタオル首にかけるとか」
「平気だって。おふくろと同じこと言うなよ」
「…そう…そっスか…真咲サンも言ったんだ…」
「? 何、変な顔してんだよ。腹減ってんだろ、上がれって」
「…アタシ…今日はこのまま、おいとましたい気分なんスけど…」
「なんで?…あ、疲れてんのか?ならちょっとだけ…なんか親父が浦原さんに話あるっつってたから」
「……うわあ…帰りたい…」

ぐい、とネクタイを締め直し、手櫛で髪を直す浦原に、今度は一護が首をかしげる。子供の頃から行き来していたのだから、今更遠慮も何もないのに。
「…アタシ明日会社行けるかなあ…」
深いため息とともに、浦原が呟く。
「そんなに疲れてんのか?」
「……」


心配そうに見上げる子供の少し上気した肌に、薄く濃く残る鬱血痕。

いつものタンクトップなら隠れるギリギリの場所につけられたそれらが、シャツから赤くのぞいていることを、本人だけが気付いていない。



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