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□拍手文
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顔も見たくねえ!

そう叫んだ瞬間、今まさに喧嘩している相手に、力いっぱい抱きしめられた。
身を翻しかけていたところを力任せに引き寄せられたせいで足がもつれ、一護はしたたかに額を打つ。頭突きは想定の範囲内だったのか、逞しい体はびくともしない。

「…っ、なんっ…」
「じゃあ、見なくていいから」

耳元に声が落ちる。もがく隙さえないほどの拘束。この馬鹿力、と怒鳴りつけたくても、息ができない。それほどの。

「嫌いでもいいから側にいて」
「…え、」

唐突に告げられた内容と声の重さに、息が止まった。
(なんだ、それ)

「このままいなくなるくらいなら、嫌われるほうがマシ」

感情を殺した、平坦な声音。思わず瞠目し、一護は動きを止めた。
浦原の、顔が見えない。
心が、みえない。

「嫌いで、いいから」
低く、……重く。
まるでそれが事実だとでもいうように。
一護に嫌われていることが事実だとでもいうように。
(俺は)
平坦に紡がれる言葉のせいで、浦原の心が見えない。心を伝えようとしてくれない。心臓が握りつぶされるような不安。
なんで、急に、こんな。
「…いいわけねえだろっ…」
無理矢理、肺からしぼりだした声は、震えていた。
(俺は、こんなに)

体よりもこめかみが痛くなって、視界が潤む。なんで俺が泣かなくちゃいけないんだ。思ったけれど、止まらなかった。
浦原が殺した分の感情が、自分の中から溢れてくる。浦原のせいだ。浦原の涙だ。そう思ったら、ますます止まらなくなった。

「ごめんね、大好き」
「…っきしょ…」

いつの間にか、痛いほどの拘束から包みこむものへと変わった腕が、一護の背中をさする。だから今度は一護が、その体を力の限り抱きしめた。
「ごめんなさいのキスしてもいい?」
「…顔、は、見んじゃ、ねえぞ…」
「…難しいこと言いますね」

お前のせいだろ、俺はまだ怒ってるんだ。言い返す前に、涙をさらうような口づけで唇を塞がれた。
一護から感情を奪い返すように角度を変えられ、触れあった箇所から怒りも悲しみも吸いとられていく。この優しい唇に、嫌いでいいと言わせた自分に、腹がたった。
(いいわけ、ねえだろ)

こんなに、好きなのに。


その想いも全部伝わってんのかな。伝わるといいな。
一護が薄く目をあけると、近すぎてぼんやりした浦原の輪郭が見えた。律儀に、目は閉じているようだ。
泣き笑いの顔で一護も目を閉じ、聞こえる鼓動に身をゆだねる。


…無性に、顔がみたくなった。



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