倉庫

□はかる
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「…だからさ、今、足でこう、測ったんだけどさ」
浦原商店の庭先に降りたった死神姿の黒崎一護が、大股で一歩踏み出し、縁側でのんびり月見をしていた浦原喜助に訴える。

突然の来訪。
月の昇る方角からやってきて、なんか頭の上をウロウロしている子供がいるなあとながめていたが。
「たてが5歩くらいしかねえの、この店」
降りてきたら降りてきたで、言うことが予測不能だ。
「たて?」
「縦かける横だろ。面積」
首をかしげた浦原に、一護が答える。
「……。……はあ、まあ」
何と返しても話の腰をおりそうなので、微妙に笑いたいのをこらえつつ、浦原はそれで? と促す。
「歩測してみて、どうだったんスか?」

どうもこうも。
まだ幼い雰囲気を表情に残した一護が、ずかずかと縁側に近づいた。一護の歩幅で5歩分しかないこの店の、店主をみおろす。
「どうもこうも。降りてみたらやっぱ廊下だけで10歩以上あんじゃねえか」
「そういう構造スからね」
浦原は帽子の影からあっさり答える。
「変だろ」
「変じゃないスよ。そういう構造、なだけっス」
いわゆるひとつのオーバーテクノロジー。
釈然としない顔の子供に、唇の端を引きあげてみせる。

現実に無理やり、けれどあっさり、完全武装ですべりこんだ店。縁側から見上げる風景は、ご近所も月も、何の違和感もなく。
だからきっと、いつ消えても。こんな、5歩しかない店なんか。

「…変だろ」
一護の呟きがおちた。浦原がひろいあげる。
「慣れてくださいよ」
拾ってから浦原は少し考え、今度は帽子の影にならないよう、冴えた月光を目に映して一護を見上げた。
(あら、ちょっと不機嫌そう)
浦原にとっては逆光だが、これだけ近ければ一護がうつむいて口を真一文字に結んでいることくらいわかる。
「じゃあ今度は、縦が6歩にしときまショ」
……だから。

直接、目を見た。

「アンタが一番わけわかんねえ」
「そういう頭の構造なんス」
慣れてくださいよ、と続けようとして。浦原はふと口をつぐんだ。
一護の目を直接見たから、やめた。
かわりに。
「不可解なら、また歩測でも目測でもドーゾ」

今度は、目許をゆるめる。
「アタシ、ここからの月見が好きなんで。黒崎サンの気が向いたらまた降りていらっしゃいな」


そうして、子供の日常に、非日常をすべりこませた。

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