10/12の日記

18:07
色んな笑顔を、君からもらう
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高校生パラレルでっす。










「…あ、写真…」
「ん?」
「あ、……いや……」

呟く声を拾って振り返ると、慌てたように視線をそらす一護が視界に入った。
リビングのローソファに座っているとばかり思っていた後輩は、何故か左手の壁際につっ立っている。ホットサンドを作るのに少し時間がかかるから適当にテレビ見てていいっスよ、とリモコンを渡したのだが、画面は真っ暗だ。
二人分のカフェオレをお盆に乗せて近づくと、一護はびくりと肩を揺らす。気づかないフリでテーブルにお盆を降ろしつつ横目で伺うと、棚の上、一番目立つ位置に飾られた母親の写真と目が合った。
確かに、先日来たときに新しく撮ったものを現像したばかりだが、瓜二つな顔が並んでいるのはいつものことで、そんな、背中に隠すような反応をされるようなものではない。他に何か、まずいものを出しっぱなしにしていたか…。

浦原は小首を傾げ、しかしすぐにその背後に何を置いたか思い出し、ああ、と軽く頷く。
夏休みに入る前、お互いの予定を聞いていたときにも、そういえばこんなバツの悪そうな表情を見た。

「そうして並んでると、どう?似てる?」
「……」

浦原の軽い問いかけに、何とも言えない顔つきで一護は黙りこむ。人を招く場所に飾ってあるのだから、やましいことは何もないのだけれど、気持ちの優しい少年は胸のうちで色々な言葉を探しているのだろうと知れた。
血の繋がった父親との、ツーショット写真。パリで仕事をはじめたと連絡があり、祖父母の家を訪ねるついでに落ち合ったときに撮ったものだ。
今までの自分なら、会わなかったかもしれない。そう思ったし、父にもそう言われた。
ましてや、母と一緒ならともかく一人で会いに行くなんて。

「その木彫りのフォトフレーム、端材で手作りしたらしいっスよ」
「…すげえな」
「手先が器用でね。極めたら凄そうなのに、飽き性で職を転々としてるのが玉に疵」

そっと近づき、一護が隠していた写真を手にとる。ぎこちない動きでそれを見守る一護に笑いかけて、浦原は細工彫りの施されたフレームを指でなぞった。

「黒崎サンのこと話したら、感謝してましたよ」
「…え?…なんで?」
「黒崎サンがいなかったら、二人で会うのはもっと未来だったかもしれない、って」
「……?」
「アタシが、家族っていいもんだなーって思うきっかけは、黒崎サンがくれたから。…ホラ、半年前くらいに、黒崎家にお泊りしたことがあったでしょ」
「ああ…お袋が言い出して、親父が玄関に仁王立ちして強制的に泊まらせたやつな…」
「そう、それ。浦原の家とも、祖父母の家とも、夜一サンのお屋敷とも違ってて……賑やかであったかくて、いいなーって」

居心地悪げに立っている一護を促し、ソファに座らせる。ただうるさいだけだろ、ともごもご言うのに苦笑して、湯気のたつカップをその目の前に置いた。
厚く切ったハムとチーズと自家製トマトソースを挟んだホットサンドと、帰り道にあるコンビニで買ったから揚げも並べると、何より素直な腹の虫が鳴るのが聞こえ、思わず吹き出す。自分のことを考えて悩んでくれるのも嬉しいけれど、やっぱり、黒崎一護はこうでなくちゃ。

「冷めないうちに食べましょ。いくら見つめても、写真じゃお腹は満たされませんよ」
「…いただきます。…つーか、浦原さんの親父さん、なんかびっくりするくらい若いな」
「惚れないでね」
「阿呆か」

まあ実際若いのだけれど、奔放な母と自由人な父の馴れ初めを話したらキャパオーバーしてしまいそうなので、その話は胸にしまっておくことにする。少しずつ、知ってもらえたらいい。
…そういえば、ホットサンドの具にしたトマトソースは、祖母から教えてもらったレシピだ。

不自然じゃない方向に話を変えながら、浦原は、行儀悪く指でつまみあげたから揚げを、ひとつ口に入れる。
あーん、なんてしてあげたら、まだ何か考えている感じのもやもや、全部吹っ飛んでくれそうだなあ…。そう思いついて棚を見やれば、写真の中の両親が、イタズラ好きの表情で笑い返してくれた気がした。



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