素敵小説

□錯覚じゃないって。
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ちぇ。
やっぱ図星じゃねえか。

自分がバカみたいだ。
仕事だってのに
ちょっと…

「デート」気分で浮かれてたよ、私服姿の年下野郎に柄にもなくときめいちゃったりして、さ。

「も、お前一人でなんか乗ってこいよ、俺まだ酔いがとれないからさ、休憩して適当に帰っから」

「嫌、でさァ…」
「はあ!?てめ、俺のことまだ、いたぶり足りねー…」
沖田を見上げると、なんだよ?お前まで真っ青な顔して。
「…沖田くん?お前、なにがしたかったの?」

「だ、だから、旦那とデートを」
「俺にとっちゃ、これデートっつーより拷問、に近いんですけど」

沖田は、はあ、とため息を吐いて、俺の隣に座る。

「旦那に、錯覚してもらいたかったんでさァ」
「さっかく?」

ぽつぽつと語りだした沖田の〈錯覚〉とやらに、俺は呆れてしまった。

よく、アクション映画やなんかで、窮地に陥った時に一緒にいた相手に恋をする、なんてパターンがあるけど、人間ってのはスリルを感じている時の動悸が、恋をした時のドキドキに似ていることから、錯覚を起こすらしい。
つり橋効果、ともいうそうな。
ついでに言うと、自分に恋させたい相手とスポーツをするのも有効で、
一緒に運動をした動悸や汗を流す快感が、セックスをした時の高揚感に繋がる、そんな錯覚。

「へえー…」

ん?
てことは、おめー…
要するに、俺に恋させたいってか!お前に。

沖田くん。
まるで純情M少年だよ、それじゃあ。
可愛らしい顔が薔薇色に染まって、なんて可憐な美少年、て風情。

「すいません、旦那、気分悪くさせたお詫びでさァ、依頼料はちゃんと受け取ってくだせィ」
ごそごそと財布を出しかけた手を掴んで。
お望みどおり、恋人みたいに手を繋いだ。

「んな依頼なんかに無駄遣いすんじゃねえよ。」
「旦那?」

「普通にデート、誘えばいいじゃん。
俺、甘味屋行くだけでいつも胸がときめくんだけどなあ?」

きょとんとする沖田に、
にっこり微笑んで
誘ってみる。
ころころと変わる少年の表情は、どんなアトラクションよりオッサンの胸を弾ませるのにね。


「旦那、甘味って。もう吐き気は治まったんですかィ?」
「あ?アレー?いつのまにか復活しちゃってるから、胃が。」
腹減ったー、早くなんか食わして?って握った手に力を込めると、
「都合のいい胃袋でさァ」といつもの勝ち気な笑顔。

デートは始まったばかり。


2008.6.9

→次は変態の感想
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