素敵小説

□錯覚じゃないって。
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待ち合わせ。

待ち合わせ、なんてすんの、何年ぶり、いや、初めてかもしんない。
やっぱし早く着いちまった。


三日前の万事屋
神妙な顔をしてソファに座る沖田がいた。

その《依頼》は

『ここに、旦那と行きたいんでさァ。デートしてくだせェ。金ならちゃんと払いやすから』

沖田とデート(どわあ、こっぱずかしい!)。
まあ、なあ、
沖田くんまだ若いのにむさくるしい男だらけの
真選組なんてえのの中で生活してんだ、たまにゃデートなんかもしてみたいだろうし…て、でも何で俺をご指名なんだ。
はて?

目の前をカップルや子供連れの家族が門を入ってゆく。
うーん、
若者ってのはこーゆうとこに来たいもんかねえ。

銀髪頭の男はもう何度目かのため息をついた。
遊園地の門の前で。


「お待たせしやした、旦那ァ」
「いやいやいや、俺も今きたとこだしぃ」
そわそわして待ってたなんて思われるとちょっと痛い。

「さあ、なんに乗りやしょうか?」

「えーと、あんまし内臓に響かない程度のもんがいいんだけどー」

いつもと違う、藍色の和装姿の沖田は若者らしい爽やかさ、
ちょっと、並んで歩くの、躊躇する。
「さあ、旦那、これこれ」「あ?はいはーい」
手を引かれて船みたいなモンに乗り込む。
沖田に急かされて、せっかくだから端っこに、と船の一番端に乗ってしまったことを、銀時はすぐに後悔した。
大きく揺れる、胃が浮き上がって口から出るかと思った。

「おうええぇぇえっ」
降りてすぐにトイレに駆け込んだ。
嘘だろー、二日酔いどころじゃねえ、気持ち悪さ。

「あーあぁ、吐くもんもねえ程食ってねえんですかィ」
「う、うるへー、は、あ、朝、食ってねえから、…って、吐いたもん覗きこむんじゃねー!」
「威勢はいいけど、足、萎えてますぜィ」
ぐったり座り込んでいる銀時を、沖田はずるずると引きずっていく。
「次はなんに乗りやしょーかねィ」
自分のこの状態を見てもすぐに次の乗り物に乗ろうとキョロキョロしている
沖田に戦慄をおぼえた、
そうだ、こいつは生粋の
S王子だったっけ。



「旦那、旦那ァ…」
あれからまたくるくる回るカップみたいなのと、滝をおっこちるみたいなのやら、いくつか乗って、俺は動けなくなった。
デート、なんかじゃねえな、こりゃあ、
沖田くん、ってひょっとして、わざと…

「も、やだ…」
「旦…」
「依頼料とか、いらねえから、俺、もう帰りたい」

と、いますぐに遊園地から出ていきたかったのに、
ベンチから立つことも出来ない。

「旦那ァ」
さっきから沖田は旦那旦那、ってそればっかり。

「おまえ、さぁ、何があったかしんないけど、こーゆう憂さ晴らしみたいなん、やめろよな」

「…」
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