素敵小説

□雨の日はセンチメンタル
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薄暗い、夜みたいな空が泣きだした


たまに。

たまに、
こうなっちまうの。
誰かにやさしく、抱き締められたい
オレをすきでたまらないみたいに、すべて奪われるみたいに、求められたい

それが駄目ならば、
せめて一思いに斬り捨ててくれないか
たった一つ、やさしさを、与えられないなら、
消えてなくなりたい――。





その日は朝から小雨が降り続いていた。
冬の雨は寒々しい
今が昼だかもう夜だか、
外はずっと薄暗い。

「苺牛乳、買いに行ってくる」
そう言って万事屋を出た。傘をさしていたけど雨が霧雨のように風に乗るから、全身がしっとり濡れてしまう。
ああ、気持ち悪い
朝からこんな調子で気分がヘン。

閉めてしまっている店の軒先で雨宿りした。

ばしゃ、
派手な足音がして、黒い男が入ってきた。
「おまえ。坂田」
「そうゆうあんたは、多串くん…なに?仕事、休み?」
いつもの隊服ではないから、一瞬誰だかわからなかったよ。
「ああ。休みで、お前んちへ行くところだった」
「え、なんで?あ、もしかして、依頼?仕事くれんの?助かる、うちいますげえ金無いの」
「ばか、そうじゃねえ、つうか、金無ぇのは今に始まったことじゃ、ねえだろ」「じゃあ、なんの用なのさ」
「好きだ」
「はあ!?」
「だから付き合え」
「なにそれ、命令!?」
「厭、なのかよ」

いや、とか、なに、
いきなりすぎて頭がついてかないって。いや、厭、っていうか、お前、男…

「女、みてえ」
土方がオレの頬を触る、すごい、あったかい、手。
「女、って、オレ?おまえ、目ぇ大丈夫?こんなごつい女がいるもんかよ」

「そうか、やっぱり、俺ぁ、おかしいんだろうな」
と言いながら両の手のひらで顔を包むように触れてくる。
「可哀相だな、おまえ…女にもてすぎて、感覚へんになっちまったの」
「おまえ以上にクる女なんか、いなかった」
「へ…」
「探したけど、いなかった」
「探したの?」
「ああ、おまえがすげえ、欲しくなって、こんなん間違ってるだろうと思って、いろんな女抱いたけど、
いなかった、おまえほど、欲しいと思う女なんて」

言いながら、左手が耳の裏へ周り、首筋に触れた
右手が濡れた髪を根元から撫でる。

ああ、厭だ
これだから、もてるからって、若いくせに百戦錬磨な男前なんてのは。こんな、技、オレに繰り出すなったら。こんなされると、
頭で考える前に、身体がしゃべりだすよ、
気持ちいい…
もっと、

「もっと、色々、触りてぇ」
男前が、やらしい顔をすると、こんな顔になんのかぁ、整ってるって、お得だなあ、って、やらしい黒い男から目が離せない。
あれよあれよという間に、すっぽりと抱き込まれて、その両手は背中や腰を擦っている。
う、んッ
だからあ、そんなやらしく触んなって!

「敏感、なんだな」

ああ、これ。
これが、欲しかった、のかもしれない、
あたたかく、オレを包み込む、体温。

なあ、もっと、言えよ。
オレが欲しいなら、
おまえがどんだけオレを必要なのか、言って。
オレは、たぶん、信じないけれど、
あたためてくれるなら、
甘い気分に浸ってやってもいい…

「おまえが、わからねぇ」耳元にかかるため息混じりの言葉。

「おまえ、なにを寂しがってるんだよ」
「な、に?」
「誰よりも強ぇくせに、なんでそんな、頼りない、心細げな顔してんだよ。」
「は?」
「奪いてぇ。おまえのこと、誰にも盗られたくねぇよ」
土方の、緩められた両手から、わずかに身体を離して、顔を上げると、土方の顔がすぐ目の前。

「なあ、キスしていい?」
とか、聞かれた!
こんなこと聞かれて、女だったらなんて答えんのかな?オレは男だから、わからねえけど、
「聞かずに、しろよ」
と、目を瞑り、薄く口を開いてやった。

「すき、だ」

熱い唇が触れる前に、
聞こえた、愛の台詞。
オレはどうしてもそんなもの、信じられない人間だけど、
信じたい、って思ったよ。



雨音が強くなった
どしゃぶりの飛沫を受けながらキスを交わした
薄暗い、昼だか夜だかわからない
こんな日は、淋しすぎて、やさしさを求める
求められることを
求めていた
切望する、愛



《雨の日は、
センチメンタル》

2008.1.27

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