素敵小説

□純哀メランコリー
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天人の血がこびりついてしまった刀の手入れをしていると、軽いノックの音と同時に扉が開いた。



「銀時、ちょっと抱かせろ」



不躾な事を言いながら、どかどかと入ってくるソイツが、名乗らずとも誰か分かってしまう自分に、ほんの少しうんざりした。



「たーかすーぎくーん。前にも言ったんだけどノックしても俺が返事する前に開けたら意味ないから。ノックしてないのと同じだから。お前何回言えば覚えるんだよ」



俺が注意しても聞くようなヤツじゃないことは分かっているのだが、最低限のマナーくらいは守ってもらわないと困る。



「アァ?んな細かいこと言ってんじゃねェよ」



高杉はニヤリ――と笑うと、俺の頬を指で軽く撫でた。



このやりとりをするのは何度目だろうか。少なくても一回や二回ではないはずだ。



そうこうしている間にも、高杉の手は俺から刀を取り上げ、帯を解きに掛かっている。



まだイイって言ってないんだけど――と思ったが、今更言ったところで止まるわけがないのは分かりきっている。



それに、高杉に求められるのはこれが初めてではなかった。



いつ殺されるのかも分からないような、常に緊張感に張り詰めたこんな場所では、これぐらいしないと高ぶった気を沈められない。



最初の頃こそ抵抗はあったものの、今更恥ずかしいとも嫌だとも思わなかった。いや、むしろ少しだけ嬉しいと思う自分がいる。



男の俺から見ても綺麗な顔をしている高杉だが、特にこうやって求めてくる時の顔は物凄く扇情的で。



その顔を俺だけが見てるのかと思うと、ほんの少しの優越感を覚えた。



俺は高杉に抱かれたって嫌じゃないし、ちゃんと気持ちいい。




けど、高杉はどうなんだろう。



男の――それも自分より背の高い――ゴツゴツした体を抱いて、気持ちいいんだろうか。



高杉だったら、わざわざ俺じゃなくっても、そこら辺を歩いている可愛い女の子に相手をしてもらえるはずなのに、どうして俺のところに来るんだろうか。



別に…俺じゃなくってもいいはずなのに――。



俺じゃなくっても…。



「っ…」



ふいに胸の奥から湧き上がってきた衝動に眉根を寄せると、額にふわりと高杉の唇が触れた。



「大丈夫か…?」



高杉の声も指も俺を見つめる瞳も何もかもが優しすぎて…



「大…丈夫っ…だ…」



――どうしようもなく泣きたくなる。



純哀メランコリー



(なんでこんなに優しいのかなんて、聞くまでもなく分かってる)
(それなのに言葉にして欲しいなんて――)

-end-
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