-[Wonder&Shot]-
□第一話 ある旅人の男性の話
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僕が旅に出たのは、何と言うことは無い、単に放浪の旅に出たかったからだ。
どうせ連れ合いもいなかったし、自由な人生を生きようと思った。
ただ、それだけのことだった。
危険なことも、楽しい出来事も辛い別れも、様々なことを経験した。
定住するよう誘われたこともあったけれど、こうして旅を続けている。
今ではもう、立派な旅人だ。
そして今日、聳え立つ名の知らない山脈のふもと、だだっ広い草原のド真ん中に、一軒の宿屋を見つけた。
(こんなところに宿屋……?)
とてつもなく不自然だった。
それに、こんなところで経営していて儲かるのだろうか。
でも、宿屋を目の前に、吹きっさらしの草原で、夜露に濡れながら一夜を過ごすよりは、絶対に泊まった方がいいのは一目瞭然だった。
僕は、膝にも届かないほどの長さの草がどこまでも広がる草原を、とぼとぼと歩いていった。