ゆめ(ホワイト)

□またひとつ
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「あ、スク見つけた。探したんだよ」

徐ら、耳に心地好い澄んだ琴声が、春の穏やかなそよ風に混ざって耳に届いた。その声に促されるようにゆっくりと重たい瞼を上げると、そこに屈み込んでまじまじと自分の顔を覗き込んでいた、喜色に溢れた少女の大きな瞳とかち合った。木漏れ日に薄く染められた彼女の、熟れた桃のように滑らかで優艶な薔薇色をした頬は、生まれつきだと言う。

「…ゔぉ゙ぉい、…眠ィぜぇ」
「一人でひなたぼっこ?わたし、起こしちゃった?ごめんね、」
「気にすんな、大したことねぇ。久々に少しリフレッシュしようと思ってただけだぁ」

最近は立て続けに入っていた任務の所為で、お天道様に顔合わせひとつしてなかったからなぁ、と、大きなあくびをしながら、男は背中を預けていた柳の木の幹に沿って、ううんと唸りながら伸びをした。陽光に煌めく銀色の髪が、黒いシンプルなゴムでひとつに結わかれているその様子は、どことなく彼から醸し出される色気を一層強調しているようにも思われた。無邪気に首を傾げながら、彼の顔色を覗き込む少女を目の前にした男は、交差させていた細く長い脚を組み替え、不意に、口許に穏やかな含み笑いを浮かべる。そんな男の隣に、ちょこんと三角になって座り込んだ少女は、それに応えるように柔らかないちご色の唇を、かわいらしく弧にして見せた。

「そうだ、スクにお知らせ。今日ね、」
「おー」
「わたしも、ボスに特別にお休みもらったんだ」
「ゔぉ゙、そりゃあよかったじゃねぇか」
「ボスがね、たまにはやりたいことすればいいって。珍しいね」
「…なんだかんだで、ボスさんはいつもお前に甘ェからなぁ」

呆れたように笑いながら返した、何気ない男のその答えに、少女はそれとなく得意げに胸を張って見せた。それが特に肯定の意味をアピールするものではないにせよ、嬉しそうなその笑顔を見、途端に堪らなくなって、色艶の良い絹糸のような髪に指を絡め、乱暴に撫で回してやると、彼女はくすくすと子どものような小さな笑い声を上げる。

「やめて、くしゃくしゃになっちゃうよ」
「…にしては嬉しそうだぞぉ」
「それは、お休みが久しぶりだから。嬉しいよ」
「そうかぁ、」
「あのね、でも、スク…ひとつ困ってるのがあってね、聞いて」
「…あ゙ぁ?」
「ボスに言われて、よく考えたらね、わたし、やりたいことわからないの」

男の細身な体に纏わり付いた白シャツの、しなりとしたその触り心地を楽しみながら、「朝ご飯のときからずうっと考えてたんだけど、でも、気が付いたらお昼になっちゃってた。どうしよう、お休み終わっちゃうよ」身につけた下ろしたてのワンピースの裾をぎゅうっと握り締め、恥ずかしそうに呟く少女を、彼は先ず驚いたようにじっと見つめた。羞恥するようにほんのりと赤らむ彼女の顔は、どこからどう見ても真剣そのものである。次の瞬間、少女の物憂げな表情に見入っていた男から、思わず小さな笑い声が零れた。何を言い出すかと思えば、そんなことは俺にだってわかりゃしねぇ、と。職業柄、普段こんなに穏やかな笑顔を見せることのない彼を、今度は少女が目を丸くして見つめる番だった。

「すく、笑った…」
「何なら俺が、街にでも連れて行ってやろうかぁ?」
「ほんと?」

車くらいすぐに出してやれるしなぁ。ちょうど俺も暇を持て余していたところだ、と、少女の嬉々とした表情を見て取った男は再び静かに笑う。しかし、気の利いたの彼台詞を聞き逃すでもなく素直に飲み込んだ筈の少女は、心なしか遠慮がちに、ちいさく首を横に振った。

「…どうしたぁ?」
「うーん…あのね、やっぱりいっしょにいる、わたし、」
「あぁ?」
「スクアーロと一緒に、ここにいるのがいい」
「ゔ、ぉ゙お、…!」

そこからは微塵の恥じらいも感じられない、はっきりとした口吻と共に、少女は首を傾けた。だめ?ともう一度。ハニーブラウンに輝く髪がふわりと風に揺れる。思わず口元を覆っていた、男のレザークロスの左手が、かたかたと小刻みに痙攣した。耳が焼け付くように熱い。動悸が、激しくなる。我ながら、しかし何とも情けないと思った。

「こうやってお昼寝するだけでもいいから、」
「ゔぉ゙ぉい…」
「…やだ?」

恐る恐るといった表情で呟く姿に、既に崩れ掛けていた男の理性が耐えられるわけも無く、すかさず腕に招き入れた少女の、真っ白な柔肌に停滞する体温は、ちいさな子どものそれにとてもよく似ていた。なんか子どもみてぇだなぁ、と、特に深く考えず、そのまま思ったことを口に出してみると、彼女は頬を膨らませ、少し拗ねたような顔でそっぽを向いてしまう。

「…拗ねんじゃねぇよ…冗談だぁ、」
「ぽかぽかするのは子どもだからじゃなくて、おひさまの温度なの!」
「わかったわかった」
「わかってないよ、また子ども扱いしてるもん」
「してねぇ」
「してるよ」
「してねぇっつってんだろぉが」

片意地を張ってぷいと顔を背けたままでいる彼女を後ろから抱きすくめるようにして、その繊細で魅惑的な色香を放つ彼女の上唇を甘く噛んでやる。数センチの距離をそのままに、一瞬驚いたような顔をした少女は、直ぐさま腕の中で無理矢理に身を捩って向き合うと、幼子のように悪戯に微笑んだ。

「うわあ、びっくりした」
「…今日はやけに甘えたなんだなぁ、調子狂うぞぉ」
「スクが優しいからだよ、」
「はぁ?」
「だってほら、今日ね、すごくいいにおいがするもの、」









またひとつ

きゅんとしちゃったの









































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企画白黒さまに提出しました
素敵な企画に参加させていただき、ありがとうございました




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