100題

□029.あのときああしていたならば。
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人生なんてのは後悔の連続だ。いつだって失敗ばかりで、非現実な「もしも」に思いを馳せる。自分の意のままに過去のある時点に遡って、複雑に枝分かれしてる道をあちこちさ迷うのだ。
しかし現実はいたってシンプル。実にシビア。たった一本の凹凸の激しい、狭く長い一本道でしかない。その事実を突きつけられて、何度落胆しただろう。

一つ、また一つ。後悔は生まれる。

「高杉」

微動だにしない背中を見つめて、ああ、まただ、と心中嘆く。
いつからかなんてもう覚えていないけど、間違いだらけの人生のどこかで、君と歩く正しい方法を見誤ってしまったんだろう。

「高杉」


煙がのぼる。

分別もきかない子供の頃から一緒にいる自分よりも、あの煙の方が、彼とは良い付き合いをしている気がするから笑える。


なあ、高杉

俺はもうお前の隣にはいられないんだろうか

お前はもう俺に背中を預けてはくれないんだろうか


腰に差した刀が酷く重いただの鉄の塊に思えて、泣きたくなった。


片っぽだけの鋭い瞳に俺を映してはくれないんだろうか

冷たい指で俺に触れてはくれないんだろうか


悲しいとか切ないとか、そういう安っぽいものじゃないくて、言いようのないどろどろしたよくわからない蟠りが俺を蝕む。

後悔、ね。そう、後悔だ

すべては後悔から始まった

今や原型を留めないほど醜い感情になってしまったけれど。
俺にはもうどうすることもできないんだ。
ただ捩れ歪んでいくそれを感じている。

全部壊して、また一から造れたらいいのになあ

真っ黒な中にどこかそんな小さな希望が灯っているから、笑える。


なあ、高杉

俺は後悔の念に押しつぶされそうだよ


せめて一言、名前を呼んでくれたら這い上がれそうな気だってするのに。



『あのときああしていたならば。』


なんて。

「あのとき」も「ああ」も、俺にはわからない。

すべてはごく自然に、始まったのだ。




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09.4.18 漆島希有














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