ふっかつ
□空色ビター
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どうしようもないくらい誰かを好きになったことが今まで一度だってあっただろうか。
好きだけど伝えられなくて、もどかしくて、その辛さに嘆いたことが今まであっただろうか。
伝えたいけど、でも伝えるくらいならいっそ死んでしまったほうが楽だなんて。そんな想いを抱いたことが、あっただろうか。
空に向かって叫んだって何にも返ってきやしない。
ああ、なんで空はこんなにも広いんだろう。
涙が出そうだ。
空色ビター
「会議の資料です。これといって取り上げるようなものはありませんが、一応全て目を通しておいてくださいね」
いつ見ても不機嫌そうなその顔に紙の束を突きつけた。
普通なら机の端にでも置いておけばよさそうだが、彼―雲雀恭弥に対してそういうわけにもいかない。面倒だと言って碌にめくりもしていないことは彼の右腕である草壁に確認済みだ。もちろん、直接手渡すことによってその存在を忘れ去られないようにするためでもある。
彼はしぶしぶ受け取ると、こちらの視線にうんざりしたのか、気だるげに最初の一枚を持ち上げた。
「くだらない集まりは御免だよ」
「委員長は全員召集ですから」
休まないでくださいね。
そう念を押すと、彼は資料を投げて頬杖をついた。
「あまり顔を顰めては綺麗な顔が台無しですよ」
くすりと笑えば呆れたような溜息がひとつ。彼はそう言った褒め言葉を嫌っていた、と思い出して肩をすくめる。怒らせてしまっただろうか。
「煩い」
判断するには微妙な声色だった。
「君の権力で僕を欠席にしてくれたりしないの」
「できません。ただの会長補佐ですから」
「つかえないね」
「そうですね。それでは後日、会議室で」
球がバットに当たる、気持ちの良い音が遠くに響いた。
空は茜色。校内に人の気配はほとんど無い。
廊下を歩くと虚しさが募るばかりだ。
触れたいだなんて、思ってはいけない。隣にいたいだなんて、思ってはいけない。
この想いを口にすることは許されない。
彼にとって自分はどうでもいい人間でしかないのだ。
(好きです)
その想いは出口を知らない。
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08.1.6 暁希有