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□やさしさ
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3年ぶり。約束より1年早いけど、気になんかしてない。
「おーい、そっち酒回ってっか?」
「オケィ!大丈夫」
「皿足りるー?」
「箸!箸ふたつ足りん!」
「ビールは?」
「あ、座布団あるか?」
忙しく準備して、みんな早く始めたがっているのがわかる。ちゃんとした準備じゃないけど、せっかく皆で集まったんだから、って今日の主役が言ってた。
「そいじゃ、いくぜ」
かつての委員長で、ムードメーカ、そして今尚健在のその大きな声によって雑談は途絶えた。
「片手にコップ持て!…準備はいーかー!?」
「おーーー!」
右手にビールの入ったコップ。並々いれてあって、それはもう今の気持ちを表しているようだ。
「主役、瑞樹に代わりまして、渡辺大地、音頭をとらせて頂きます。…コールお願いしまっせ!…3、」
「2、」
「1!」
「乾杯ーーー!」
ヒューヒューと口笛が鳴り、拍手が続く。主役は黙ってそれを受けている。とても、安らいでいて、にこやかなまま。
「いや、忙しいかったなー」
「もう、ビックリしたよ」
「俺も、俺も。ビックリした。まさかな…こんなに早く、集まるなんてさ」
「由樹、大丈夫だったの?仕事」
「まあ、大丈夫。ちゃんとした理由だしさ、仕方ないって三日も休みくれたぜ」
「亜未なんて5日とったて」
「なになに、有給?」
「つーか由樹斗、ヨーロッパどうよ?」
「やべーって、ほんと、みんなに見せてやりたいぐらい…」
「あー…いつだったか、皆で旅行計画あったなぁ」
「瑞樹、ほんといきたがってて…」
「ぷはー!」
「いい飲みっぷりだねぇ」
「ハッ、あいつには負けるよ、」
「そんなに?」
「半端なかった、あいつののりっぷりは。なぁ、三村!」
「うん、すごかった!酒に強くて」
「そっか…見たかったなぁ…」
「…うん、もう一度飲みたかった、瑞樹…」
「智枝、飲まないの?」
「……うん、飲まない、かな。ありがと、朔ちゃん」
――飲めないよ。つらすぎて。
急でしかなかった。
一番傍にいたあの子と、私でなんとか準備した。皆を集めて、久しぶり、1年早いけどって話した。
言われた通りに皆は服装を黒に統一して、綺麗な珠のブレスレットを持ってきた。何人かは目を赤くしてきた。
――でも、笑って。
「どうして」
「え?」
「どうして笑っていられるの?」
「智枝子…」
大声をだし、その場は一瞬にして静まった。みんな、こっちをみる。
「―おかしいでしょ!なんで、笑うの?どうやったらそうやって盛り上がっていられる?私は、できないよ、できない…できるはずが……っ」
シーン、として虫の声さえも聞こえない。ただ呼吸音だけが、ふたつ、足りない呼吸音だけが虚しく聞こえる。
「……山崎、それが瑞樹のお願いなんだから」
ポツリ。
「……っでも!」
「智枝、だってね」
――一番辛いはずの、あの子。
泣いてないのよ。
みんな、下を俯く。
少しだけ啜っているのが聞こえてきた。
「…………っ」
――泣いてないのよ。
知ってる。だってずっと。ずっと傍にいたもの。笑顔だった、いつまでも。無機質な電子音が響いても、あの子は優しい顔でずっと、瑞樹を見てた。誰よりも優しい顔で。
「一番、辛いあの子が、泣いてないの。…だから、私たちも」
――瑞樹の願いなんだから。
水溜まりが、できた。
「マコ」
「ちえ、なに?」
相変わらず。
そんな顔しないでよ。
いつまでも、そんなに我慢しないでよ。
「マコ、泣いてよ」
「ちえ…でもそれは、」
「違う!」
違うじゃない、そんなの。
「どんなに望まれた行為でも、そんなの違う!瑞樹たしかに望んだ!望んでた!でもっ」
違う、そんなマコ。
「今のマコを、望んだわけじゃない!」
――マコ、助けてやってよ。
「瑞樹は、今のマコのことが好きだったんじゃない!」
――無理して、泣かないと思うんだ、マコさ。
「瑞樹は、マコにっ」
――過去は過去だって。そう思ってほしい。オレのことで前にすすめないなんて、なるなって。
「マコにこの先もっ…」
――って、自意識過剰かな?
「自分のことじゃなくてっ、マコに…っ!」
――智枝、智枝しかいないよ。
「皆も、皆もマコを」
――智枝、マコに肩かしてあげて。
「………っ」
――お前しかいない。お前が、マコ泣かせてやれ。
…溢れる。零れる。
壊れた水道の蛇口のしめ方なんか知らない。溢れて、だだ流し。
「…泣け!我慢なんか、するな!」
伝わらない。うまくは言えない。でも違う。違うでしょ。感情抑えつけてまで、思う気持ちさえもを忘れたように居てはだめ。辛いなら、泣いてよ。壊れないで。
――マコ。
「……っ優しいんだよ、みんな」
優しすぎる、と付け足される。
「優しくて、曖昧で。だからこそ、肩なんか借りれない……」
「マコ。おいで」
「………ちえ」
優しくて、境界線が曖昧。借りていいのか、わからない肩。みんな一緒だったから、みんながわかる。私たちは曖昧で、微妙で、それでも強い繋がりだった。絡まってはいるけど、強くて、太い糸だった。
「………ちえー、どうして。」
「うん。」
「どうして、瑞樹は」
――オレが死んで、みんなが集まったら、約束で予定してたみたいな宴会してくれ。悲しいとかじゃなくてさ。みんな笑いあってやろう。楽しく、盛り上がって。
久しぶり、元気だったか?ってさ。……まぁ、1年、はやくなっちまったけど、ってさ……。
「……バカ、瑞樹。」
やさしさが、溢れる。
有り余って。