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□オレたちは誰よりも体温を知っている
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『滝 陽介』の名が日本中に知れ渡ったのはそれから2ヶ月。




「陽介の居場所?……知るかよ」

「そうですか、残念です。あなた程の親密な関係にありながら居場所を知らないと……」


「ああ!さっさと散れ」

「…失礼致しました」


――あなた程の親密な関係にありながら…。

何が言いたかったんだ。親密であるのに消えたことか。親密であるのに裏切ったことか。


『懸賞金3000万円』というレッテルを貼られた陽介はオレの前から姿を消した。ただ、前日に自分のノートパソコンをオレに預けて。――何もかもわかっていたかのように。


「くそ陽介……」


――いや、きっと。
何もかもわかっていてたんだ。

大学のことも、日本のことも、ゲームも、オレの予定だったそれも、自分がどうすれば周りを巻き込まないですむか、も。







「――…あ…、30ぷ…ね」

「――…もう…ひが…につ……んだ」

「――やっと…」

「!!」

「あ、要。起きた?」

勢いで毛布を蹴りあげる。
コトン、コトンと独特の音と、それにあわせて振動がくる。

――なんだ、まだ汽車か。

「どれくらい…寝てた…?」

「1時間くらい?」

「だいたい、そんくらい」

「………悪い」

うなだれる。こっちは指名手配犯同然だ。いつ狙われ、捕らえられるかもわからないのに。

「大丈夫だよ、なにもなかったし」

「そうさ、結果的には大丈夫だったんだ。それより要はこれからが踏ん張りどころだろうしね」

体力蓄めろよ、と背中を打っ叩かれる。

「……ん」

―――あれから2年。

陽介の消息は未だ不明のままだ。
あのレッテルのまま、2年、隠れ過ごすことは困難だろうと思われたのか街々に貼られたポスターや広告はほとんど消え去っていた。

――生きてるじゃろ、こんな眉ハの字にしちょる仔犬、残して死におるよぉな度胸もんなら、きっと、そなパソコン預けていかんぜよ

西の都で会った、お婆さんの声がこだまする。


――生きてる、きっと。


窓の外、雲の隙間からこぼれる日射しが街を照らしていた。


「わぁ…東!」

「とうとうか……」


――さあ、やってきた。


ここで、決着だ。


俺たちは誰よりも体温を知っている
――俺は忘れていない、あの体温を。
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