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□私たちは誰よりも体温を知っている
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比喩でも揶揄でもなく、ただ単純に一言、簡潔に言えることだ。


さあ、始まりの合図は鳴り響いた。
ゲーム・スタートだ。





―――走って走って走って。

「―…上手くッ、…撒け、た?」

後ろを振り替えると誰一人、影はなく整然とした大通りが伺える。

「…咲(さき)、こっち!」

「…!うん!」

――気は抜けない。抜いてはおしまいだ。

仲間が手招きした方へ、誰にも見られていないか確認しながらそっと静かに入った。

中には2人の男が居た。

「上手く、撒けてよかったよ」
スーツの、手招きした方が言う。

「2人のバックアップがあったから。ありがとう」

PCを使った、情報操作やシステムの破壊。2人のうち、手招きスーツじゃない方はPCにめっぽう強く、そっち方面ではかなりの戦力である。

「いや、悪かった。少し油断した。監視カメラがまだ動いていたのは予想外だった」

茶髪でクセっ毛、耳には逢ったときからついている銀のピアス。黒ぶちメガネを外しながら(近視ってやつ)ふぅとため息をついた。

「ううん、全然大丈夫だよ。要(かなめ)が気に病むことじゃないんだから」

「そうさ、要。お前のせいとかじゃないからな」

――そう。要のせいなんかじゃない。
日本が、壊れたんだから。


「晄津(あきつ)、目処は立ったか」

「ああ、それはなんとか。東の方へは行けると思う」

「ほんと?どれくらい?」

「都心部には無理だが、東京圏には……きっと」

――東京、都心部。

3人が集まって3ヶ月は経っただろうか。それ以来ずっと、目指してきた場所だ。この、馬鹿げたゲームを終わらせるために。

「すぐ、でるか?」

要が尋ねる。PCで情報操作とシステム侵入をしてばれないようにしてきたから、その準備を進めたいのだろう。しかし、今すぐにでもそうしたい気持ちは山々だが、さっき撒いた奴らはまだそこら辺でうろちょろしているに違いない。

「今は、ちょっと……」

「……そうだな。もう少し、待機しよう」


緻密に練って、なるべく気付かれないように。楽に、素早く。頭を最大限使って。


「ゆっくり、準備しとく」

「頼む、12時間後くらい、丁度朝方にしよう」

「……うん」

疲れたな、と思ったけれど睡眠は交代制。晄津の番だったので我慢。
悪い、走ってきたばかりなのに、と謝りながら晄津は奥へと消えていった。


要はテーブルのPCに向かって、いつもよりゆったりとした(それでも普通の人よりは早い)テンポでキーを軽快に押してゆく。


「……疲れてんなら、寝ろよ」

ぶっきらぼう。
その不器用に笑い、少しだけ緊張がほぐれた。

「大丈夫、要も、きちんと休んで」

ああ、と短く帰ってきた言葉。
それから会話はなく、静かになった。外も騒いでいる様子もなく、ただ沈黙の空気だけが流れる。


――こうなると、どうしても考えてしまう。


「……なんで、こうなっちゃったんだろう」


「………」


要には背中を向けていて表情はわからなかったけれど、きっと聞こえただろう。


――どうして。なんで。


悲痛な叫び。理不尽なゲーム。被害者はこっち。

なのに――。


要は思い立ったように、椅子から立ち上がった。




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