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□孤独なアサンシに花束を
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異常とはなんだろうか。
(グチャリ、と何かを貫く)
よく人は異常だ、と後ろ指を指してきたものだが、自分で自分を異常だと感じたことはない。
(あらゆる箇所から零れる、深紅)
しかしながら、やはり世間一般では異常に部類するのだと、上司は言っていた。
(バタリと地面に転がり)
普通から外れた、並大抵ならぬもの──異常。
(痙攣し始める肢体がたまらなく)
加えて、あまり好ましくないものだとも言う。好かれることもなくば、認められる様なこともない。( お も し ろ い )
睨まれ、恨まれ、そして時に報復をうける。
そのように扱いをうけるほど異常なのだと、哀愁を帯びた声がこぼれていた。


「リオ、今回はどうだった」

無機質な声が俺に問い掛ける。

「ああ、面白かったよ今回」

ふう、と煙草の煙をはいてソファーで息をつく。

「まったく、お前というやつは」

───異常だ。
口には出していないが、そのあとに羅列する言葉はわかる。

「最初は少しずつにしようと思っていたんだ。少しずつ、動脈をさけて細かい傷から…だんだん大きくして。恐怖に満ちた顔だったよ、最高に。でも駄目だ、アレは。途中で失神、痙攣し始めて倒れて………最後に銃弾浴びせて幕を下ろしたよ」


肢体はそのまま放置した、とはき捨てる。
まるで赤い翼を広げたような肢体。飛び立つように四肢を精一杯広げて………いや、実際飛び立ったのか。
天国か地獄に。



「ということは、また何も掴めなかったんだな」

──手掛かりを。

「……もう、一年だ」


早いものだなあ、と呟くレンにそうだな、と相鎚を打つ。

──一年だ、もうあの日から。

失った日から。
赤い赤い、真っ赤なクリスマス・イヴから。


「…何を備えてくるんだ?」

ちらりと腕時計をみたレンは視線を落として、ふっと柔らかく笑う。復讐の報告をしてくるんだろう?と。

こくり、と頷いて差し出された缶コーヒーをもらって立った。


──時間だ。


「──花束だよ」



命日でもあるから。





「暗殺者が、花束か…」

いつもなら人々に赤い花を咲かせる暗殺者が、きっと色とりどりの花を抱えていくのだろう。

「一途にもほどがあるだろう」

奴を、リオを嘲け笑っているわけではない。
まだ忘れられない過去を背負って、ずっとずっと影を追い求めて。

それは、……俺も同じだ。







黄、緑、橙、青、白、赤。
カラフルに、しかも盛大に創られた花束は漆黒のスーツにはとても栄える。だが、大事に胸元で抱えて、手放さないように。

─やがて、目的の場所についた。

『立川 真人』

冷たい石にははっきりとそう掘ってある。
体温の、温もりのない。
心も体もなにもない、ここ。

「…マコさん、今日もダメでした。」

手をあわせて、手を伸ばす。
もう届かないと知っていても。

「なに見つからないままです。…………っすいません、早く仇を」

絶対に、とりますから。

嗚咽に混じって、零れて、流れて、消える。遠くには伝わらない。零れて、消えて、なくなって。


あの人は、どこにいるんだろう。

ポタリと幾粒かがコンクリを濡らし、それをみて涙を流しているのに気が付く。


暗殺者が、殺しをやる奴が死んだ人間を思って泣くなんて。
とんでもなく笑えるのだろう。
でも、全てのきっかけは此処だ。
あの日があったからこそ、今の俺がいる。

世に異常と謳われる、暗殺者が。








「どなた、ですか」






──それは突然落ちてきた。


「タチカワ マコトに用ですか」

透き通った、ソプラノ。
そして静かに供えられる淡赤色と赤で統一感ある花束。

手をあわせてた彼女は長い髪を風に揺らし、一度閉じた大きな瞳を開けてこちらを見つめた。


「タチカワマコトは、私の兄です」


その出逢いは確かに、噛み合わなかった歯車を回しはじめた。

静かに。


「私は、」


そして



───カチャ…



刻々と。



孤独なアサンシに花束を、

まだ知らない真実。
それは確実に近づいてくる。

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