□01.最初で最後の正しい嘘
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桜が舞った卒業式から既に1ヶ月だ。意図的に降らせた桜に感嘆したひとはどれだけいたであろうか、今は知る由もない、……実際には知りたくもない。開かずの間である屋上をこじ開けて(よじ登ったに等しい)、安物の人工物を撒き散らした自分勝手な行為には、どこまでも救いがなかった。
自己満足で、後先考えないただの我が儘行為に批判はつきもの。

(さよならのしるしに、)

そう思って、最後の七不思議が完成した。
涙も零れないお別れ会。

『いくよ、未央』

傍に付き添う、連の声はひどく優しくて、どこか涙を誘う。哀しそうな瞳が未央を映す。

お礼をいおうと思って、とっさに仕事中は源氏名をいうことが思い出される。

『うん、ありがと、……帽子屋さん』

なんだか、恥ずかしい。と笑う。そっと手をとって、いつしか懐かしいと思い出すだろう友たちに背をむけた…。











未央が最後の部隊として配属されてから、一ヶ月。
訓練をつんで、今後、仕事にも徐々にでていくだろう。そして、そのための、仕事上の源氏名を考える必要がある、と至急にと指令があったのはつい30分前だった。


なにがいい?といっても難しい。
これから、下手しなくとも一生使うだろう肩書きになる。

「……思い付かないから、みんなのをききたいんだけど」

「いや」

即答したのは、深谷さえ。
鼻筋の通った美白の女、綺麗にまかれた亜麻色の髪がゆれる。

「シンデレラ」

「…ッ!ちょっと春!?」
と、尽かさずこたえたのは生駒春。もとリーマン。ストライプのワイシャツにスーツ、そして黒い縁眼鏡は彼のチャームポイント。


「どうせ一緒に仕事するんだ、それなら早く馴染んでもらった方がいいだろう?」

「……ちなみに、どういう理由で?」

さえは、気まずそうにしていた眉間のしわが消え、ふぅ、と息を吐いて観念したというように未央をみる。

(綺麗な瞳、)

「シンデレラそのまんまの人生だから、というかんじ。」

(だからこそ、気づいてほしくない)


些細なトゲ、いや、実際にはなにでもないが、未央を前にすると突如表れるトゲが、さえの心を刺す。優しい目線が未央に注がれるが、未央自身はさえの望み通りなにも、一切気付かない。
さえの、意図する"シンデレラのような人生"には。


「春さんは?」

「柴犬大好きだからシバ」

(昔、飼ってた愛犬と、)
密かに感傷に浸るが、捨てたのは春自身だと、戒める。

(すこし、違う意味、だけど)

心の中で苦笑する、まだ未央には早い。そして、生涯ずっと、わかってはほしくない。


「……なんで春は春さんなんすか」

口を尖らし、明らかに嫉妬をするのは三村龍樹。若干一年しか未央とは変わらない、茶髪のもと高校生だ。ワックスで盛った髪は不自然にくしゅくしゅ揉まれて、一生懸命に重力に逆らう。


「うん、とりあえず、龍樹は?」

「………。
……ウィザード。魔法に憧れてたから、」

(……魔法があれば、きっと)

そう願った。だから。
でも口には出せない、それは未央を見れば、わかる。
きっと、知らない。ここの意味を。


「んなこといって、実は流行ってた漫画とかじゃないのー?」

「ッ……ひどっ!さえこそ童話のヒロインかよ!」

「いいじゃない!最高に似合ってるでしょう?」

「その態度シンデレラじゃねぇー!意地悪なババァAとかだろ!」

「意地悪ババァ!?なによ!」

「その前に、龍樹、Aって、お母さん二人も三人もいないって」


「……ところで、連はなんで帽子屋なの?」

大声で言い合うさえと龍樹の横で、未央が連にきく。

一瞬で、場がシーン、と静寂になる。




「アリス」



「?」
「え?」「?」「は?」


「アリス。未央に、どう?」


漆黒が揺れる。左手にハットを持つ帽子屋は静かに愛しのアリスを誘う。視線はハットだが、問いかけは未央に、だ。

「……アリス、うん、すき」

「……は?!ちょ!えっ!?」

「はーい、じゃあ決定。未央の源氏名は"アリス"」

「……アリス、可愛いね」

「待てって!えっ!?まじか?」

「龍樹は黙りましょう」

「でも、アリス……なんだか似合わないかも。」

ゆっくりと自分の名を呼ぶ。
それは帽子屋の、愛しき存在。
傲慢な気がしてならない。

「アリス、いいと思うよ、未央」

ふわり、と笑う、忍成連。
それにつられて、川中未央、そしてアリスは笑った。

「アリス」

(話してはいけない)

帽子屋の理由。
その内に秘めた狂気、そして…。
知れば。知ってしまっては。
でもいつか気付く。
でもそれまで、狂気を隠す。
嘘をつく。

連はその存在の救いにアリスを、求めた。しかし、それさえも嘘かもしれない。

一ヶ月した今にもかかわらず、未央のデビューを飾ってか、全メンバーが揃った祝いか、(それとも、忘れるためか、)その日、5人はいつになくはしゃいでいた。


これは、0隊。
対テロ対策秘密組織中枢部隊開発という肩書きでよばれる"0隊"の、5人のハナシ。



01.最初で最後の正しい嘘
(嘘とは、違う)
(でも、ほぼ同意の行為)
(後は考えなかった、ただ)
(ここにあってほしい、今の願いのために、嘘を)











つーか、早く名前しらせろよ!
byボス
 

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