reborn

□黒の真実
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でもまあいっか、リボーンには言いたかったしと笑う綱吉の腕をいきなり引くリボーン。
気が緩んだためか、お腹に思い切りデスクが刺さったが唸るだけで耐えた。最近がんばってるボンゴレボス。

「ツナ」
「――え?」
「その女…そのお前の恋人は――イトコといったか?」
「ん?うん…?」
「あー…」
「な、なになになに?」

なになになに!?

「参ったな…――俺が知る限り、ディーノに従妹はいねえぞ」
「へ!?」
「女の、な」


な ん で す と ? 


「年齢はいくつだ」
「……へ、あ…に、にじゅうさ、ん?」
「ああ――」

俯きがちになったリボーンの表情は、ボルサリーノの陰に隠れ見え辛い。だが、その様相だけで、この優しい家庭教師が苦しんでいるのがわかる。
けれどそれも一瞬にして掻き消し、リボーンはくいっと面を上げた。その眼差したるや、美しさを閉じ込め悲愴を小さな粒に変えて。

「俺が知ってるディーノのイトコは、みな50代だ」


マ ジ で す か 


「あ、あ、う、嘘……」
「嘘は……ああ、ツナすまねえ。嘘だ、みな」
「え!?」
「お前はお前の真実で貫け。俺のことなんか信用するんじゃねえ」
「、リ」
「愛してるんだろ?淡い恋でよかったんだろ?俺はそれを壊す気はねえ」
「リボ」
「だが――ああ、いい。ツナ、俺はお前の教師だ。それ以上でも以下でもねえ、そんな俺が言うことは一つだ」
「……」
「偽りでもお前が望むなら真実だ」


「俺、ちょ行ってくる!!」
「じ、10代目!」
「ああごめん獄寺くん、フゥ太……仕事途中だけど…」
「構わないっす!いってきてください!!」
「ツナ兄、ぼくたち待ってるからね!!」

駆け出した綱吉。
だが、綱吉はドア前で瞬間立ち止まる。

「リボーン…」

背で呼ぶ声に、リボーンは落としていた視線を上げる。
ふわりと振り返った顔は、潤んだキャラメルに光を湛えて笑みを。

「… ずっとそばにいてね……先生…」

綱吉はすぐにドアへと身を翻した。
でなければ、窓の光を背に逆光で見えないはずのその顔を脳裏に焼き付けそうだったから。

苦しげな顔――

ああ先生

先生







たった今ドアに吸い込まれた背を、獄寺もフゥ太も思い描く。呼び止めたら止まってくれそうな、そんな優しい背。でも呼び止めることはなかった。
複雑な想いを抱きしめながらも、ただ主のためならば手足となって、それこそ爪の先だっていい、そんな小さな力でも主を懸命に応援したい。――その瞬間、獄寺とフゥ太の心は同じだった。

ただ、背後の黒いオーラさえなければ。

「あ、の…?」

オーラ戻ってきてますよ?

「獄寺」
「は、はいぃ!」
「フゥ太」
「い…はい!」
「てめーらさっきの聞いてたな」

獄寺とフゥ太は、ほぼ同時に金剛峰寺の仁王像を思い描いた。――いや、やっぱり仁王様の方が優しかった気がする。いい雰囲気だった気がする。

「獄寺」
「イエッサ!」
「お前、ツナよりちょっとばかし早く行ってその女たぶらかして来い」
「イエッ……い、いえ、さ?」
「あいつ車で行く気だぞ。なんならヘリ使え」
「え、うえ??」

「フゥ太」
「イエ、イエッサー」
「今からキャバッローネのデータ管理からハッキングして情報改ざんしろ」
「ハッキ…?」
「ディーノのイトコは全て―――女で、年齢は70代、とな」
「お、おん……ななじゅう!?」
「プロフィールは『整形シテナイヨ☆この若さナリ♪』とでもしておけ」

くっくっくと緩やかな弧を描く唇は紅く、そして獰猛で。

「な、んで」
「あ?」
「えっと、あの、ど、どっち?全員男…女なの…?」

こちらを見下ろしたその顔は無表情で。

「どっちだと思う?」
「え、…あの…」
「ハッ、愚問だな――キャッバローネほどのファミリーだぞ。デカいファミリーには後継問題からも庶子なんていっぱいいるもんだ。それこそ、親類は多い。どちらか一方だけ性別が偏るなんて」

くくっと咽喉の奥で笑う声。瞳に闇の嘲笑。

「あるわけないだろう」

悪魔がいる。

「な、じゃあ…んで、」

ツナ兄がきっと答えを求めようとするなら混乱する。そして疑惑をほのめかされるのは、彼女だ…!
真実を求めることは、2人には…

「情報に踊らされるやつは情報に首絞められる ――」

よりドス黒くなったオーラを撒き散らし、いっそ愉しげだ。

「どれが真実か?決まってる」


― あいつの真実は俺だ。今も昔もな ―


フゥ太はこれ以上ないほどに蒼褪める。こいつ絶対敵にしたくない…!!ツナ兄たすけてーーー!!(あれ!僕が助けるべきだっけ!無理!!)
だがそれ以上に蒼褪め、ガタガタ震える獄寺が目の前にいた。

「あ、あの、リボー…ンさ、ん…」
「なんだ」

窓の下を見やる。まだ綱吉は出てこない。
それはそうだ。ボンゴレボスたる者が、感情溢れさせ外に出ようなどとは、事情知らぬ部下たちには了解できるものではない。案の定、階下の方で破壊音が聞こえる。

「俺…あの俺…その策りゃ」
「任務」
「はい任務ですねイエッサー!…で、ですね……それ、したら…10代目が俺、とその人見て…その…」
「おお修羅場だな」
「………!!!」
「お前しかやれねえな右腕」

そのまま微笑を唇に、背にはかつてないほどのオーラを漂わせながら、マックススピードで退出した獄寺(走り様ごめんなさいすみません俺もうダメっす10代目と念仏のように聞こえた)に続きドアへ向かうリボーン。
フゥ太は辛うじて声が出せた。どこ行くの、と。


「ディーノに勉強教えてやらないとなあ」



いや、あれは怖かった。おそろしかった。
一向に止まらぬ指、その瞳は真っ直ぐにスクリーンを睨みつけながら、フゥ太は述懐する。

可哀想なのは隼人兄さ。
でも一番はディーノ兄かもね。
あの人、ツナ兄に惚れてるくせに…ああ踏んだり蹴ったりだろうなあ――

その声に、実は一抹の小気味よさが含まれていたなんて、本人さえも知らない。





fin
(先生だけが一番愉しめる結末)
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