reborn

□薔薇か緑か
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「任務終了〜…」

疲れた声と共に、会議室と銘打った豪奢な応接室にあるようなソファにどっかりと身を沈めた。瞬間拍手が起こる。守護者たちから。

「それで?」
「それでとは…?」
「言えたの?」
「ああ。言いましたよ…」

雲雀さんの得心した笑みをちらりと一瞥してから、ふっかとしたクッションに顔を埋める。骸が「どんなニュアンスで?」とたたみかけるように問う声。笑いは噛み殺し切れてないようだ。

「『だったらもう近づかないで――』それだけです」

10代目立派ですの声に半笑い。俺は立派でもなんでもない。

度重なるセクハラに辟易していたのは俺だけじゃなかった。否、俺はもう慣れっこではあったし、昔あんなに触れたがらなかったやつがとどこかで嬉しい気も確かに無いではなかった。
けれど日を増していくほどに多くなるそれ。違和感がどこからかやってくる。

俺の守護者達はなぜか面白くなかったらしい。彼らはリボーンに対して、一目もニ目も、いや十目だって置いてる。あの雲雀さんだって例外じゃない。
だが、募る苛立ち。表立って不快を露わにしても、それが効く相手ではない。
なんでそんなに腹が立ったのか。理由は、ボスとしての威厳が損なわれるから、とそういうことだろうか。そうかもしれない。違うかもしれない。でも確かめる気にもならない。だって面倒くさい。(雲雀さんだけは「風紀が乱れる」というマフィアに通用するとは初耳な理由を言ってくれた)

ある日獄寺くんが報告書を持ってくる。

『なにこれ…』
『守護者たちで話し合いました』

まさかリボーンのセクハラが守護者会議に出るとは思いませんでしたよ。ええそりゃもう。

『10代目、心苦しいです。心苦しいですが…みっともない格好をしてください』
『わけわかんない。なんでそれが…』
『大丈夫です。そんな格好をしても、あなたの威厳は失うどころかいや俺にはあなたのお姿が魅力的で眩し』
『必要?』
『くて堪らないです。ええ、それでリボーンさんの気持ちを断ち切りたく』
『だって、今まで色んな姿見せてるよ〜?そんなんで…いや無理無理』
『ブリーフ案も出ましたが、それは逆に喜ばせるんじゃと意見が出ました』

頬を赤らめる右腕の発言から、その会議は心底ろくでもないものだったらしい。

『突飛な格好は逆に感付かれると懸念が出ました』
『あー…だね』
『ささやかな変化を』
『ささやかね』
『笹川から「股引だ!!」と案が出まして』
『……ささやか?』
『ごく自然な流れでリボーンさんの目に映したく思います』

結果的に何も知らないハルと京子ちゃんに手伝ってもらう形となった。ただあの色合いを選ぶとは、京子ちゃんの俺に対するイメージは芳しいものじゃないなと初恋が少し塩辛く思えたのは内緒だ。

そして、股引見せてそれで終わりかと思った。思ってた。
一応、俺が穿いている場面を見せて「リボーンも穿いてみろよ〜冬は俺のターンだぜ〜〜」なんて促す手段でいくだろうと皆検討をつけていたが、俺はきっと自分が蜂の巣になるに違いないと泣きそうで。
だからその方向じゃなくて良かったは良かったが――…

『イレギュラー発生!小僧、自分で穿いてるぜ!』
『なんで!!?』

今でも忘れられない。インカムから聞こえた、あの衝撃。
傍らにいた骸が小さく「ひぃっ」と叫んだ気がした。

そうして、俺はただちに成すべく行動する。
自覚はある。みんなに流されてやっている、と。だが――払拭しきれない違和感。きっと嘲笑したいためなんだろう?俺をいつだって欺く先生。リボーン。ああリボーン。そんな惑わす行為に耐えるほど、俺は貴方に対して純情な生徒などではない。
からかわれたっていいよ。バカにしたっていいよ。だけど、それを真に受けていつまでも振り回されるなんてごめんだ。どんどん俺の中が乾くばかりだ。

あるのなら、見せてもらおう下心。

『近づかないで』

その一言で、震えるほどに俺を見続けた先生。
ゆっくり、あの端整な顔立ちを彩る薄桜の唇が、小さく『わかった』と告げた。光の小さな粒を閉じ込めたような、切れ長の眼差し。美しい影となった漆黒の殺し屋。俺の先生。俺の脳内が痺れるのを感じる。

俺はいつから演技じゃなくなった?

『けどお前を誰にもやる気はねえ』
『……』
『近づくやついても、無駄だって思わせるほど』
『……』
『まあ近づいた時点で射程距離に入ったってわけだけどな』
『………わー…』

先生は笑む。
何百億と昔の光を俺に届けんとする星さえも、今この瞬間俺の先生には敵わない。

『その極上な笑顔は俺がもらう』
『……』
『それだけで充分だ』

俺が充分じゃない。

ふざけんな。


さて。

「あれ。ツナ、どこへ」
「ん?リボーンとこ」
「は?」
「もう脱いだろうしね」
「え?は?」
「大丈夫。人前でのセクハラはやめさせるよ」
「どういうこと?」

3人ばかりの殺気の中で一際でかいものを阿修羅のように漂わせて、雲雀さんが前に出る。(他2人はきっと骸と山本だ)
俺は欠伸をしながら、ドアノブに手を掛けて。

「みんなありがとう。大好きですよ」

小さな「卑怯だ…」って声は聞かなかったことにして、さて先生にセクハラでもしてきますか。




fin
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