reborn

□薔薇か緑か
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ああ、ああ、ああ。
なぜ。
なぜ今。今になって。

白魚のような指が己に近づいてくる。やめろ。やめてくれ。いややめないでくれ。だが、いや、俺は。

「リボーン…?」
「ツ、ツナ」

態勢を立て直せ。思い出せいつもの俺を。

「ツナ…聞いてくれ」

南無三。ツナの細い指を掴む。それくらいの接触なら俺の理性も吹き飛ぶはずがねえ。
小首を傾げて、上気した頬のままツナは俺を見上げる。

「リボーン…なあに?」

かーわいーいなーもーう。食ーべちゃうぞー!
…ってやれねえ。無理だ。無理すぎる。

「ツナ、俺のツナ。今日の俺は余裕ねえんだ…」
「い…」
「い?」
「いいよ…俺も…余裕ない、かも…」

ちょ、聞きました奥さん!?
あの、俺がどんなにどんなに攻めても「キモーイ」の一言で逃げてたツナさんと今日は一味違いますよ!?え、これなんの天変地異?奥さん、あったかい内にご馳走になります。
じゃなくて。
そうじゃなくて。
そういう「余裕ない」じゃなくて。忙しいとかそういう意味で。「違う日にしよう、その日なら俺ガッツリぺろりだ」って意味なんで。

キスだけなら?
キスだけで俺はきっと理性が飛ぶ。先を求めたくなる。その時――その時?

何が悲しくて今この瞬間に咆哮したがるこの股間をぴんと張り詰めたもので覆わなくちゃならない。

緑色で。

「リボーン…?」
「ツナ……」

脱ぎたい。
ああ脱ぎたいさ!

俺のスーツの下がもっこり緑じゃなければな!!

好奇心だった。
俺はそんなもの穿きたくもねえし、第一必要としない。格好悪すぎる。俺は今までありとあらゆる変装(人はそれをコスプレと呼ぶ)をしてきたが、見せるためだ。こんな暖をとる為だけに、羞恥を捨てて秘密裏に穿くような邪悪なものではない。(秘密裏にしてはショッキングな色合いだが)
正直ツナが穿くと聞いた時も、「俺、教育間違えた」と思えたほどだ。後悔するわけはねえが。

だがハルの。
ハルの「一番好きな笑顔でした」って言葉で、何かを感じた。それは、安直な嫉妬などというものではない。何かが、漠然とした何かがこの咽喉の奥に感じただけだったんだ。

ハルから見たツナ。
京子から見たツナ。
俺から見たツナ。

変わるわけじゃねえが、何かが、俺の知らない何かが小さな風のようにふうっと吹かれて過ぎていった。俺は、俺の知らないツナの笑顔を想像できない。
ただ、チリリと紙で切った傷のようなものが咽喉奥に出来たような気がしたんだ。

乾いたそれらを丁寧にアイロン掛けして畳んで。ハルは持って行こうとした。俺が止めた。「持って行ってやる」と。
ハルは嬉しさと少しの戸惑い見せて、「リボーンちゃんも手伝いたかったんですね」と笑った。

別に穿いたって何かが変わるわけでもなけりゃ、わかるわけでもねえよ。そう思って、一瞬の好奇心と何かを嘲笑いながら脱ごうとした矢先――ツナに呼ばれたんだ。

「リボーン?熱、あるの?」
「うひゃあお!?いや、ちょ、額…ツナさんやめろ…」
「ツナさん!?」
「うおおおい下がれーーイチ・ニ!イチ・ニ!!」
「……」
「……」(ハァハァ)
「…スクアーロ元気かな…」
「……俺もちょっとそれ思った…」
「でもそんなこといいから…」
「ちょ、近づか…そ、下がって…ん〜いい感じ」
「え、『ん〜』言ってるわりには涙目だよ?」
「ツナ…好きだー…」
「リボーン…」
「近づかないでくれます!!?」
「何キャラ!?」

俺は馬鹿だ。

ああ馬鹿だ。



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