reborn

□黒の真実
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かつて、自分がこのような感情に捉われることがあったろうか

――溜め息というオプションをつけて、フゥ太はゆっくりと窓を見やりながら呟く。
窓の外では、自分たちに不似合いな程の陽光。照らされるのは、曾祖父の代からこの庭を愛していると入れ歯で笑う老庭師が丹精こめた薔薇園だ。
そんな景観に溶けることない、青ざめた眼差しを宙に投げ、フゥ太は言う。

僕は元々、客観視は慣れているんだ。
だからこそランキングなんか口に出来たりしてたわけで。振り回される人間というものを沢山見てきたから、自分は振り回されることはなくって。感情なんか別個のものとして置いてこれたんだ。
だけど。だけど、さ。
――あんなに震えた隼人兄に同情したのは初めてだったかもしれないなぁ…今頃は隼人兄………

そう呟くフゥ太は薄く弱々しく笑んで、およそ数十分前のことを話し出す。
憂いた表情とは対照的に、その細い指先は止まることなく華麗なブラインドタッチを続けていた――




いきなりの緊張を強いられた。
それまでは、全員手を止めずとも時折おこる種々の話題に、軽やかな笑い声と気持ちのよい陽光のこの空間を楽しんでいた。
このやろうフゥ太、そう口にする獄寺の声も苦笑混じりで。この空間を歓迎していることがわかる。
自分たちは仕事という名の拘束状態に身を投じてるわけだが、この執務室、ただ1人の鷹揚で柔らかい雰囲気に救われ、浸され、甘んじている。

それが破られたのは、1人の人間の出現。
ノックなどという殊勝な行為を全く無視した(その本人は全てにノックを強要する。世界中にその名を馳せるボンゴレボスにさえも!)、美しくも傲慢な死に神。(死に神だからノックしなくても仕方ないか!)

ああやっぱりと顔を上げ、挨拶をしようとしたその瞬間咽喉を押さえる。フゥ太も獄寺も。
残る1人だけは、柔らかな笑みのまま、リボーンとそれが挨拶の様に声に出した。

ツナ兄気付かないの!?その人真っ黒過ぎるオーラをデコレーションしてるよ!?

すげえな…黒オーラがビーム照射してるみたいだぜ…

慣れは怖い。
常にいる存在だからこそ、相手の普段とは違う所作になんらか気付くものだが、この場合、黒いのが当たり前という認識が慣れに繋がり、綱吉を麻痺させていた。
綱吉はリボーンのオーラを気付くことなく、進みよるリボーンを歓待する。

「お疲れ様。首尾はどう?」
「ああ、上々だ」

綱吉に薄い笑みを返す。その行為だけで、己の主が教育的指導という理不尽な暴力にさらされないことがわかり、小さく肩の力を抜く2人。
だが、リボーンのオーラは消えることなく、薄い笑み漂わす切れ長の眼差しはボルサリーノの影から暗く光る。
獄寺とフゥ太は仕事に専念すべきか、判断を強いられた。結果、最善策の聞き耳を実行。

2人は執務室の、綱吉のそれにしたら幾分簡素な机にて、一方はパソコンにてデータの統計・書類の清書、もう一方はパソコンから起こして書類作成、右腕としての権限で行えるレベルまでの執行許可書などを作っていた。
本来なら仕事部屋たるそういった室があるのだが、ボスたる綱吉にその都度判断を得る内容が多かった件と、一緒やろ〜1人だと寂しくってさ〜という甘い誘いでこちらにてやるようになったのだ。
後者が圧倒的に理由となるのは周知の事実である。

だから自分たちに一切の頓着見せず通り過ぎ、綱吉のデスクの前に進みよる姿は、横目で視認できた。
聞き耳と盗み見の二段活用。状況に応じて、聞き耳一段活用が求められる。

「良かった。あの政治家はクセがあるって雲雀さんから情報もらってたからさ、調べたらまんまとアメリカのファミリーと繋がってたからね」
「ルートを幾つか潰しといたぞ」
「どんな方法…って聞くだけ野暮か」
「それよりツナ」

来た来た来た来た!!

「ん?」
「節穴な目と思ってるか?」
「え?」

うわツナ兄隠しごと!?

待て、10代目の隠しごとなら俺が知ってるはず。ちょっと思い出してみる。

隼人兄…

「え、なにか…あ、」
「言ってみろ」
「さっきマカロン、3人で分けちゃった」
「……」

オーラが三割増した!

「ごめんごめん、今度買ってきてもらうよー」
「……お前が俺に言うべきはそれだけか?」
「えーと…?」
「……」

怖いよどんどんオーラ増してくるよー!

ちょ、フゥ太、あの小首傾げる様見たか?ヤバいなあれ。うんヤバい。

…隼人兄……

「あ!」
「あ?」
「エスカルゴファミリーの側近の人がパーティで吐いた時に差し出したのがなぜか俺のパ」
「違う」
「いやでもあれ俺のせいじゃないんだよ。ハンカチ入れたつもりだったんだけど柄が似て」
「違う」
「うんそう違ったんだよ。もうさ生地似てるからトランクスやめた方がい」

ズガァァァアンッッ

「ぎゃあああああ何してんの何してくれちゃってんのーー!?」
「ダメツナが」
「あっぶね!ちょうあっぶね!!お前ねこの椅子どんだけお前の銃弾入っちゃってると思ってんの!?もうね抜くのめんどくさい程入ってんだよ星の数なんか抜けるかよ勘弁してよおおお」
「はっ」

ガタガタガタガタ……

ゼィハァゼィハァア……じゅ、10代目……

「あーもう。で、なんだっけ?」
「お前女が出来たんだって?」


 !!!!!?


「え、あ、――え?」
「いいなあ幸せだなあ幸せそうだなあ脳内ピンクだなあ、ちょっとお前の脳みそ何色なのか見せてみ?」
「あ、や、いやいやいやいやいやいや!!ちょ待って!話すから!ねえどこから出したのそのメス!!」
「レオンだ」
「嘘つけ!!思いっきり銀色じゃねーか!!あ、ごめんなさいすみませんどこから言いますかなれ初めでしょうか僕泣きそうです」
「情報が入ってこようとしたけど、俺はわざわざお前に直に訊きたいとそれら遮断してこっちまでやってきてやったんだぜ。感謝しろよ、なあダメツナ」
「ふざ……ありが、と…ちくしょー!」
「ようし」

…ツナ兄、彼女できたんだあ…

果て果て果て果て果て果て果て果て

隼人兄!?

「あー…言うの恥ずかしい。慣れてないんだよこういうのー」
「ダメツナだからな」
「はいはいそーです。でもちゃんと言うつもりだったんだよー?」
「シタのか?」

!!!

「はい?」
「シタのか?」
「その、シタって…?」

ドキドキドキドキ……

「ばか。セックスだ」
「セ ――!!?」

うおおおおおそのご様子じゃまだ清らかでいらっしゃるんですねえええええ10代目ぇえぇぇえ

…隼……あーもういいや

「ま、ちょ、が、うあ……」
「どうなんだ」
「ま、ままままままだだよ!!!まだ始まったばっかりなんだぞ!!」
「そうか」

リボーン…今ニヤリ≠オたよなーきっと

にたにたにたにたにた!

……



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