グレーテルの足跡
□80万HIT記念SS
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早朝、風紀委員は全員、下駄箱から3メートル離れた外で待機していた。
「ったく、たりー」
恭平先輩が舌うちをしながらそう呟くと、茜先輩もそれに続けて口を開く。
「まったく、なんで僕が朝っぱらこんなクソ寒い外にいなきゃなんねーの。ぅあー、さみー!!!!」
「茜、毎年恒例だから仕方ない。」
茜先輩がイライラしながら眉間にしわを寄せていると、昇先輩が茜先輩の隣でそうつぶやく。
「そうですよ清水先輩、なんてったって今日はバレンタインなんですから。」
誠也先輩は耳あて、帽子も着けて、完全防備で笑って茜先輩を見ていた。
そう、今日は女の子が待ちに待ったバレンタインデー。
しかし、最近では友チョコや逆チョコなど、バレンタインデーは女の子達だけのイベントではなくなっている。
そして、ここは全寮制の男子校。もちろんこんなおいしいイベントは参加しないわけがない。
そして、こういうイベント事にはいつもいろいろ騒ぎがありまして風紀委員が出動するわけである。
バレンタイン………と言えば、チョコレート。
例え、もらえなくてもチョコレートのイベントとなるとワクワクする一哉。去年は姉のメグと母親からしかもらえなかった苦い思い出がある。
しかし、今年は去年とは違う!!
俺は真っ直ぐ前を向きながら白い息をはく。
今日のバレンタインに純司、康太と、友チョコ渡しをしようと約束しているのだ。
ふふふふ…………昨日純司が作ってたトリュフ美味しそうだったな。味見しようとしても「明日あげるからダメ!!」って言われたから今日をとっても楽しみにしていたのだ。
恭平先輩の隣に立ち、チョコレートのことを考えているので頬がほんのり赤く染まる。
「一哉、顔赤いがさみーのか?」
俺がウフフ気分でいると、恭平先輩が右手を俺の頬にあててきた。
実はチョコレートのことを考えていたのだが、寒かったのも事実で、俺の頬にあててきた恭平先輩の手が思いのほか暖かかった。
「やっぱ冷たいな。」
「………恭平先輩の手ってあったかいですね。」
恭平先輩はマフラーしかしていないのに意外にも手があたたかく、俺は思わず恭平先輩の手に顔を押し付けた。
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