オルエレ/SH
※オルアメでなくオルエレ
※幸せMoiraで学パロ、エレフとオルフは同棲設定
 でもシスコンは健在












―うまい。


そう呟けば自分を正面から抱きすくめている金がびくりと揺れた。
続いて真っ赤な顔で嬉しそうに目を細める。

「閣下のお口にあって、よかったです。」

そんなことを言って目の前の金髪――オルフはさらに顔を赤らめた。










―――――――


オルフが学校を休むと言いだした。
どれだけ体調が悪くても俺に休めと言われない限り学校を休むことのない(実際休ませても午後の授業までには必ず来ている、出席停止扱いになっても治ったと言い張って来る)男が自ら休むと言い出したのだ。
もしかしたら自分にこうして話し掛けることさえ辛いのかもしれない。
俺が心配の眼差しを向けると、体調は良いのだとふわりとした笑顔で告げられた。

では、どうしても学校に行きたくない理由でもあるのだろうか。
そう考えてるうちに一つの答えが頭に浮かび上がった。

今日は"バレンタインデー"だ。
確かこの男は去年しつこいくらいに女子に付き纏われていたことを思い出す。
オルフなかなか綺麗な顔立ちで運動も勉強も出来るし、オマケに誰にでも優しい男である(誰にでもというがシリウスは別として考えた方がいいだろう、嫌いなわけではないのだろうが何故か彼だけには手厳しいのだ)。
そんなモテる男の代表的な人間だ、去年は朝学校に登校する時から女子の相手をしていた。
休み時間や昼休み、さらには放課後もいろんな学年の女子の(ちなみに教師も混じっていた)相手でオルフは忙しく、その日俺達は家に帰るまで一回も顔を合わせられなかったのだ。
もちろん自分も可愛い可愛い妹や割と仲の良い女子からチョコをもらったが、みんな義理という名義だった(もちろんミーシャからのは手作りだったが)。
しかしそれとは逆にオルフの方はそのほとんどが本命と名の付くもので手作りのものが多かった。

先に帰宅した俺はあとから大きな紙袋を5つ程抱え(本当はまだいくつか紙袋が存在したらしいが、流石に多過ぎたため偶然会った兄上とオリオンに押し付けたらしい)困った笑いを浮かべながらいっしょに食べないか、と言われたとき男としては勿論だが"恋人"としての悔しさから拗ねてしまったことを思い出した。

バレンタインはお互い苦い思い出ばかりだな、と拗ねてしまったあとのことを考えていたら自分の眉間に何か柔らかいものが触れ、現実に引き戻された。
その感触が今度は唇に触れる。
遅刻しちゃいますよ、と耳元で囁かれれば誰のせいだと頬を赤らめるしかなかった。
真っ赤な顔で玄関から出て行く俺に笑顔で手を振るオルフ。お前は新妻かとでも言ってやりたかったが逆だと言われてしまいそうなのでやめておいて、溜まっていた洗濯物と寝室の掃除を頼んでおいた。



実際オルフは学校を休んで正解だったと思う。
"オルフ君は?"という女子からの問いに一々答えるのが面倒で"今日はオルフはお休みです。"と書いた紙を背に貼って教師の隅で壁や窓と交流を深めようと思ったくらいだ。
オルフがいないとわかると"渡してくれないか"と、一つ屋根の下に共に生活している俺に託そうとする。

当然のことながらオルフとの関係はほとんどの生徒には知られていない。知らない生徒からすれば自分達はただのルームシェアなのだ。

受け取りたくない、オルフに届けたくないという地味な嫉妬とそれにより女々しい感情を持ってしまった自分への哀れみに苛まれ苦笑しているとどこからともなく現れた兄上二人に連れ去られ、オルフへのチョコを受け取らずに済んだ。
それからも多々オルフへのチョコ渡しに利用されそうになったが、その度に兄上達やオリオン、シリウス、さらにはミーシャやアレクにまで助けられ、放課後までオルフへのチョコを一つも受け取る事なく過ごせた。

帰宅するくらい一人でも大丈夫だろうと思い、靴を履き校門を出ると後ろから自分を呼ぶ声が聞こえた。
振り向いた先にいたのは、白髪の可愛らしい少女であった。少女といってもミーシャと同じ制服を着ているのでかろうじて高校生なのがわかる。羽織っている赤いコートがやけに目立っていた。

「あの、コレ…」

怖ず怖ずと差し出された物は言わずもがなチョコであった。ラッピングから見て手作りなのだろう少女によく似合う淡いピンクの袋、それに結ばれた真っ赤なリボン。
きっとこれもオルフへのものなのだろう。
これならオリオンの部活が終わるのを待って一緒に帰ってもらえば良かったなんて今更なことを後悔しつつ困り顔で断る理由を考えていたら少女の方が先に口を開いた。

「これ、オルフ先輩と二人で食べてくださいっ…」

オルフと二人で、というあまりに予想外の発言に現状が理解出来なくなってしまった自分をよそに話を続ける少女。
話によれば、昔いじめにあっていた彼女をオルフが助けたのだという。
そしてしばらく彼女のことを気にかけていたようで、悪には容赦ないのがオルフにいじめていた側も懲りたのか、いじめはあるときを境にぴたりと止んだらしい。
そのおかげで彼女は不登校にならずに済んだ、とういうことだそうだ。

「それから私、オルフ先輩のことがずっと好きでした…」

確かに、好きになるには最高というか最適な条件だ。

「ならばどうして俺と一緒に、なんだ?」
「”好きだった”んです」
「へ?」
「私、あの時からずっとオルフ先輩のことを見ていたんです。あ、ストーカーとかそんなんじゃないですよ!純粋に先輩が好きで…でも、先輩は他の人が好きなんだなってことがわかったんです。」

話の展開がよくわからない。


「先輩の好きな人がエレフ先輩だってことに気が付いたんです」


「…は?」

ちょっとまってくれどうしてそんなかんがえにいたったのかちゃんとじゅんをおってはなしてくれないとこまるぞほらいまだってかんじのへんかんもかいぎょうもくとうてんすらおいついてないじゃないか

そんな俺を知ってかしらずか彼女は言葉を続ける

「知ってましたか?オルフ先輩って、エレフ先輩に接するときにだけ見せる笑顔があるんですよ」

そういって微笑む彼女はとても綺麗だった、生まれてはじめての恋を友達に告げるかのように

ちょっと冷静になって考える。オルフが自分にだけ向ける笑顔…そんなの気にしたことが無かった。
自意識過剰かもしれないが、あいつはいつも俺をまっすぐに見ていてくれたから、みんなにどれだけ優しくても嫉妬なんてしなかった。
自分だってそういう意味ではオルフ以外に見ていないし、オルフが誰をどう見てるかなんて全く興味が無かった。(ちなみにどちらの場合もミーシャは除く)

「笑いあう先輩達が幸せそうで、私、嬉しかったんです。みんなに優しいオルフ先輩にも、ちゃんと大事な人がいるんだなって…だから、これは先輩達2人に食べてもらいたいんです。」

だから受け取ってください、なんて言われれば断るわけにもいかず、彼女は満足そうに、そして何故か輝くような眼差しで「先輩達のことはみんなには言わないでおきますね、その代わり、今度先輩達の話聞かせてください」なんて言ってチョコを押し付けてどこかへ去ってしまった。

少し複雑な気分になりながら大事にチョコを抱えて帰宅した。
どんな事情であれ、受け取ったものは大事にしなければならない。


「お帰りなさい閣下!!」
「た、ただいま」

玄関を開けるなり勢いよく抱きついてきた金髪忠犬とそれによって潰れそうになったチョコにドキドキヒヤヒヤしながら目の前の金髪にそっとただいまと顔を埋める。

「甘い匂いがする…なにか作ってたのか?」

問いかけると照れ笑いをするオルフ。
なんだ幸せそうな顔をして、俺が今日どれだけ大変だったかも知らないで。
しかし、去年のようなことにならなかった手前、みんなに迷惑をかけながらの生活だったんだぞとも言えず緩みきった顔を見つめる
なんか腹立つのは仕方ないよなと心で言い訳しながら鳩尾に潰れない程度の力でチョコを埋める。

「ちょ、痛いです閣下」
「だったら早く何を作っていたのか話せこの仮病男が!」

ギブギブと降参の声を上げながらも幸せそうに緩みきる顔、本当に腹が立ってきた。
あとであいつの大事なコレクションという名の俺の写真全部隠してやる、泣くだろうな。

「チョコ作ってたんです」
「ほぉ、カカオの辺りからか?」
「いや、流石にカカオからは…バレンタインだから、その…閣下にあげたくて」
「………。」

ぽりぽりと指で頬をかくオルフ、この顔は…”ほふん”という表現がいちばんしっくりくるだろう。
これだからこいつは…

「あ、あれ!?閣下泣いてるんですか!?そそそそ、そんなに俺からのチョコ嫌でしたか?」

あたふたと腫れ物に触るように俺の様子を伺う
あぁ、なんでこんなに俺が喜ぶことをしてくれるのだろう
どんだけ今日の学校が辛かったとか、自分が今持っているチョコの複雑な心境とかどうでもよくなった

「嬉し泣きだ、ばか!」
「ごふっ」

遠慮なく特攻まがいの抱きつきをかます。

「…嬉しいんですか?」
「う、嬉しいに決まってるだろ!俺が今日どんだけ大変だったか知らないくせに!大勢の女子にお前宛のチョコ渡されそうになって、そのたびに兄上達やミーシャやオリオン、アレクにまで助けてもらって!帰り道では知らない後輩に俺とお前の関係を知ってるだのなんだの言われて2人で喰えとチョコを渡されて!家に帰ったら甘い匂いとお前に出迎えられて!平和ボケした面で俺にチョコ作ってたなんて言うんだぞ!お前の顔見たら嫌なこともどっかに飛んでしまったんだ!はっきり言って複雑な気持ちだけども!」
「ととと、とりあえず落ち着いてください閣下嬉しいとかよくわかんなくなってますそれこぞ複雑です!」

とりあえず抱きとめる優男に抱かれて落ち着いてからリビングに向かう。
入っていくにつれ甘い匂いが体中を包み込むように漂ってくる。

テーブルの真ん中にはそこらで量産されて売ってるケーキよりもずっと手の込んだチョコレートケーキが置いてあった。
これはどう表現していいものか…
見た目的にはきっとシフォンケーキなのだろう横から綺麗なマーブル模様が見える。
上には何処の職人技だと問いたくなるようなチョコの飾りが付けられていてバレンタインを主張している。

この男、侮れない…と本気で思った。
まだ学生という身分で何でこんなに完璧なまでにこなしているのだろうか…。

「すごいな…お前こんなに料理できたのか…」
「そのようです」

えへへ、なんて言いながら何度も言うが幸せそうに緩々の表情をしている。
可愛いなんて思ったのは自分の癪に障るから秘密にしておく。

「食べるのが勿体無い」
「でも食べていただかないと腐ってしまいますし」
「そうなんだが…」

あまりの出来栄えに渋っているとオルフがキッチンから皿とナイフ、フォークを持ってきて切り分けてくれた。
切り方も何処となく手馴れていて、何でも出来るのだなこの男はとちょっと悔しくなった。(…でもきっとミーシャのほうが上手いに決まってる。)

こんな完璧な男に、自分は好かれているのか
こんな男を、自分は愛しているのか
幸せは結構すぐそばにあるのだと実感せずにはいられなかった。

「閣下」

考え込んでるうちにオルフは切り分けたケーキを持ったままソファに腰掛けていた。
そこで食べるということなのだろう、オルフのもとまで行き自分もソファに座ろうとした。

「えいっ」
「っわ!!」

思い切り腕を引かれてバランスを崩した俺はそのままオルフの脚に跨るようにソファに膝をついた。

「な、何をする!ケーキが危ないだろ!」
「心配はケーキですか!?」
「当たり前だ、お前がわざわざ作ってくれた大事なケーキなんだから!」

勢いに任せてそう告げれば真っ赤になってしまったオルフ
つられて自分の頬も熱くなる

「と、とにかく離せ!食べれないだろうがっ」
「…ここで食べてください」
「…へ?」
「俺の膝の上で」











―――――――


そして今に至る

「…美味しい、ですか?」
「………不味かったら喰ってない。」



「……閣下ぁ」


「………美味い。」
「…閣下のお口にあってよかったです」

意表を突かれてこの体勢になった上に今この状況が全て目の前の金髪によって仕組まれたことなのだと思うと腹立たしいというか恥ずかしいというかなんかこう、腑に落ちないので不機嫌な態度になってしまう。
それでもこの男はほんわりと顔を赤らめながらこちらの様子を伺っている。
なんで本気で怒っていないとばれてしまうのだろう…。

ふん、悔しいからしばらくはこのままでいてやる。

あと、名前も知らぬ後輩に貰ったチョコは俺が全部一人で食べてやる。
…不意打ちにキスでもしてやろうか
それとも口移しとか?
口移しすると閣下の味がするとか言うんだろうな、んな味するか戯けが…恥ずかしい……
しかしこの大好きをどうやってこいつに伝えたら良いんだろうか
あからさまなのは恥ずかしくて嫌だし…
こういうのはミーシャやソフィ先生辺りに聞くのがいちばん早いんだろうけど、こればっかりは自分の考えで伝えたいし…


ニコニコと笑う能天気な恋人を尻目に、俺は複雑な心境で一人黙々とケーキを食べ続けた。











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