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□バレンタイン前夜
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嬉しそうなキューリーに笑顔を返しつつも、ウサギの頭は真っ白になってしまっていた。
ウサギ ――どうしようわたしだけ決まってない・・・
大慌てでウサギはページをめくったが、焦ってしまい余計に決まらない。
そんなウサギに更に追い討ちをかけるようなキューリーのもう一声。
キューリー「あっ!ウサギさん、もうこんな時間です!そろそろ厨房に行かないと、本当に間に合わなくなってしまいますよ!」
見れば消灯時間まであと数時間と迫っていた。
チョコレート作りにニ時間はかかると見積もると、いつまでもこうしていられる余裕などなかった。
ウサギ「わーん!早く決めなくちゃー!・・・あれ、そういえばハジメさんは?」
キューリー「あ!そうですね」
ウサギとキューリーは自分達の事で手いっぱいですっかり忘れていたが、この場所に来た時は三人だったのだ。
生徒達で賑わう談話室の中を見渡してみると、少し離れた所にハジメの姿を見つけた。
明日の為に自分の存在をアピールしているかのように、男子達はいつも以上に騒がしくはしゃぎあっている。
そんな中、ハジメはひとり背を向け、肘掛けイスに静かに腰掛けていた。
あのいつも騒がしいハジメが・・・言葉ひとつ発せず・・・ひっそりと・・・。
ウサギ ――おかしい・・・
キューリー ――ハジメさん、あんなに真剣にチョコレートを選んでる・・・やっぱり教授の事が大好きなんですね
様子を見に行こうと二人はハジメの元へ近づいて行った。
ウサギ「ハ、ハジメさん?」
キューリー「教授に何を作るか決まったんですか?」
そして声をかけたその時――
ハジメ「で〜〜きた〜〜〜〜!!!!!」
ハジメが自分の杖を高くかざして、勢いよく立ち上があった。
ハジメ「くっくっく・・・二人共!見てくださいよ〜〜ホラ♪」
ハジメがスネイプ教授の物にそっくりな、真っ黒い杖をウサギとキューリーの前に差し出して見せた。
ウサギ「?」
キューリー「杖がどうかしたんですか?」
ハジメ「ん?君達の目は節穴かね?よく見たまえ」
グイッと更に突き出されたハジメの杖に目を凝らして見ると・・・・
そこには【I (ハート) せぶるす】の文字が!
少しいびつながらも、細いスペースに上手く彫られている。
ハジメ「なかなか上手く出来たと思いません?」
満足気な表情のハジメ。
見ると、ハジメの足元にはあらゆる刃先の彫刻刀がずらりと並んでいる。
キューリー「ええっ!だ、大丈夫なんですか!?杖にこんな事をして!」
ウサギ「まさか・・・ずっとこれを?」
信じられないという風に、目を丸くして驚くキューリーと呆れ顔のウサギ。
ハジメ「ええ、そうですとも!だって、ついに明日はバレンタインですよ!?気合入れないと〜♪」
ウサギ&キューリー「・・・・・」
キューリー「ハジメさん、教授にあげるチョコレートは決まりましたか?私達、そろそろ厨房に行こうかと思うんですけど」
ウサギ「ずっとそれをしていたって事は、ハジメさんもまだなんですよね!?ね?」
ウサギは同意を求めるようにハジメの腕を掴んだ。
ハジメ「チョコ?もうできましたよ」
ウサギ&キューリー「ええっ!?」
キューリー「ハジメさんたらいつの間に!」
ハジメ「さっき。ちょちょいとね♪」
そう言ってハジメは得意の怪しげな笑みを浮かべた。