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Happy sweet Valentine!!
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ホグワーツ中に甘い香りが立ち込めている。
厨房からかなり離れているはずの図書館も例外ではない。
カレンダーは二月に変わったばかり。
図書館のカウンターで本を読みながら、私ことアイリ・クレハドールは溜め息を吐いたのです。





事の発端は日本からの留学生こと、私と同じトリップして来た知り合いの一人が発した一言。
いわゆる日本式バレンタインのせいである。
私も簡単にしか知らないが、英国式は男性が恋人(か妻)に花(薔薇らしい)を贈り、特定の恋人が居ない場合は意中の女性に無記名のカードとやはり花を贈るらしい。
それが日本式を教えた事でこんな事態を引き起こすとは当人たちも予想してなかっただろう。
おかげでここ数日、レポートで使う書籍よりも製菓に関する書籍の問い合わせが増えマダム・ピンスはおかんむりだった。



そうじゃなくてもある日いきなり大好きなハリポタの世界に引き込まれ、魔法が使えるようになるし。
事情を知ってるダンブルドアとか、周りの先生達の協力もあってなんとか魔法界での生活を送ってるし。
ここでの私は「緋山愛里」ではなく、自分のサイトのヒロインの遠縁の魔女アイリ・クレハドールと言う図書館司書見習いだったりといろいろある訳で。
で、極めつけは元居た世界で私が知っている人達が、三人そろってトリップしている事実(しかも生徒として在籍)である。
頭が破裂しないのが奇跡だと自分でも思う。
そして柔軟な思考の三人が羨ましいと思う今日この頃。
要するに、今の私の頭にはバレンタインの事を考える余裕が無いのだ。


「やほ〜、愛里さーん」
「はじめさん、図書館ではお静かに。マダム・ピンスに叱られますよ」
「まぁまぁ。あ、これ借りてた本。返却でーっす」


実年齢は私より年上のはずだが違和感無く生徒に溶け込んでいるはじめさんに感心しつつ、返却された本を受け取る。


「まさかとは思いますが、今回は変なメモは挟まってませんよね?」
「大丈夫大丈夫!!挟まってないよ〜、たぶん」


開き癖の付いた本を丁寧かつ素早くめくると、案の定「バレンタインにスネイプ教授を落とす十の方法」なるタイトルのメモ発見。


「没収」
「あっ、ひどっ!!せっかく授業中に一生懸命考えたのに〜」
「真面目に授業受けて下さいよ!!いくら今月バレンタインと言っても浮かれ過ぎです!!」
「え〜、愛里さんはバレンタイン楽しみじゃないの?みんなこんなに盛り上がってるのに…………」
「別に。本命を渡す相手、居ませんし。お世話になった方にカード送るだけですから」
「とか言っちゃって〜、本当は教授にあげたいんじゃないの〜?」


はじめさんの核心を突く一言に言葉が詰まる。
実は一番あげたい相手だったりするので顔まで熱くなってしまう。


「何で解るんですか…………」


思わずカウンターにつっぷすと、


「伊達に人生経験積んでませんから」


と、返された。
普段とこう言う時のギャップで、やっぱりこのお姉さまには勝てません。と、つくづく思う。


「ま、自分の気持ちに正直になって頑張ってみなよ。キューリーちゃんもウサギさんもめちゃめちゃ気合い入れてたし」
「………はじめさんは聞くだけ野暮ですよね」
「モチのロン!!私はいつでも全力投球さっ☆」


と、そこで顔を上げた途端背後から声がした。


「…………ミス・ヨシノ、ミス・クレハドール。貴女方はここがどこであるか解って楽しくお喋りなさってるようですね」


十二分に怒りを押し殺した声、振り向かなくても解る。
図書館の歩く六法全書にして私の指導者であるマダム・ピンスのお出ましだ。
この後、私とはじめさんは別室に呼ばれマダムから厳重注意を受けたのだった。






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