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□チョコレートキス
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あぁ、鬱陶しい。
毎日毎日、何故だか日に日に城を包む甘ったるい匂いが強くなっている気がする。
「ナオ!」
「リーマス……なに?悪いけど、今すごく機嫌が悪いの」
「それは残念だね」
「じゃあ」
それから数歩あるいて、また止まる。
振り向くとそこには先程と変わらない笑顔のリーマスがついて来ていた。
「なんなの?」
「……いや、」
「どうしたの?」
何か言いたそうなリーマスをイライラと見ながら、私は放置しながら歩いた。
まだ足音が聞こえるからついてきているんだろうと思ったら、ピタリとリーマスの足音が止まった。
「?」
何かと思って振り向くとそこには照れて恥ずかしいのか下を向きながら包みを渡す女子の姿と、その子に優しい笑みでありがとうと返すリーマスがいた。
(なによ…)
自分から離れたとは言え、リーマスは私の彼氏なのに他の女子からもチョコレートをもらうんだ。そんな事を考えながらなんてわがまま何だろうって嫌気がさした。
私だって、この甘ったるい匂いの正体が何かだなんて知ってるしリーマスが何を言いたいのかもわかる。
でも、恥ずかしいんだもん…
「あれ?ナオ、待っててくれたの?」
女子との話が終わったのか、いつの間にかリーマスはこちらに走ってくる途中になっていた。
その顔は少し嬉しそう(に見える)だ。
「……良かったね」
「え?あー……」
言いにくそうに、包みを後ろに隠しながら明後日の方向を見るリーマスに私はため息を一つ漏らしながら、ポケットからとても小さな、本当に小さな包みを取り出した。
「…!」
「いらないんだ」
「ナオ、」
「欲しい?」
「くれないの?」
「あげたい、けどね?あげたい人は違う人から貰って嬉しそうだから困ってるの」
「僕は欲しいな」
「じゃあ、そのチョコレートは?」
甘いものが大好きなリーマスだ、捨てるなんて死んでも言えないのかすごく悩んだ末に「シリウスにでもあげるよ」と呟いて私の手から包みを攫った。
「小さいね」
「わ、悪かったわね!いらないなら食べなくていいよ!」
「食べる、食べるよ。ナオが手作りしてくれたんでしょ?」
リーマスはニコッと笑いながら、私の絆創膏だらけの指を指さした。
カァッと恥ずかしくなった私はクルリと顔を見せないように踵を返した。
「美味しいよ」
「し、っぱいしたから……その…一つしか綺麗に出来なくて…」
失敗だらけで、ようやく成功した一つなのだ。一つだから包みも小さい。
「ありがとう、ナオ」
「……お返し。」
「ふふっ、そうだね。なにが良い?」
私は顔が真っ赤なのを覚悟で、リーマスに向き直って口を開いた。
とっておきの甘いキスを
「…チョコの味がする」
「そう言えばナオは甘いのだめだったね」
「うん。」
end