雑誌
□縁結び※
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動物も植物も、総てが眠りについたような静かな夜。
オキクルミは唯一明かりが灯る家を訪ねた。
身を切るような冷たい外とは違い、中は暖かい空気が冷えた体を暖めてくれる。
そんな部屋の中に、背を向けているものが一人…
サマイクルだ。
気付かれないように静かに近づき、後ろから肩越しに覗き込む。
どうやら集中して、オキクルミには到底理解できそうにない活字の本を読んでいる。
オキクルミは、その光景を見て珍しいと思った。
この頃、執務ばかりでろくに休憩もしていなかったサマイクルが今日はゆったりとした時間を久しぶりに過ごせている……
これが一時の平和とはならないよう、オキクルミは心の中で八百万の神と、空・土・海の精霊たちに祈った。
そして、何も言わずにサマイクルの背中にもたれ掛かる。
そこでやっとサマイクルは誰かが訪ねて来たことに気付き、ちらりと自分の肩越しに後ろを見た。
そこから見えるのは、少し黒みのかかった赤い髪。
その髪は毛先へ行くほど黒みが増していくことを、サマイクルは知っている。
「……オキクルミか。
来たのなら来たとちゃんと声ぐらいかけないか」
礼儀のなっていないオキクルミを、礼儀作法には厳しく育てられてきたサマイクルがいつものように諌める。
だが、オキクルミはふん、と鼻を鳴らすだけで、謝る気は全く無いらしい。
それもいつものことなので、サマイクルはため息をつくだけに止めておいた。
「……で、何か用があって来たのではないのか?」
いつまでたっても、もたれ掛かったままで何も話さないオキクルミに痺れを切らし、サマイクルは問い掛ける。
だが、返って来たのは“別に…”という言葉だけ。
サマイクルは仕方がないな、という風に肩を小さく竦めた後、本に向き直りまた読み始める。
再び静寂が部屋の中を包み込んだ。
静寂の中、囲炉裏の火がパチリという声だけが微かに聞こえていた……。
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