雑誌

□それぞれの役目
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生まれて初めて、皆が恐れていたオロチの目を見た。




といっても、産まれて一度でもオロチの目を見る…なんて

そんなの指で数えるまでもねェだろうけど

見たら、そこで人生が終わっちまってる方が普通だしなァ




それくらい、オロチの目というのは射殺さんばかりに強く、恐ろしかった。

冷たく燃える赤い瞳に、オイラは釘付けになって動けない。



“蛇に睨まれた蛙”



その表現が一番しっくりくる。

いつまでも見ていることが出来なくて、オイラは目を反らした。




次に目に飛び込んできたのは、睨みつけるようなアマ公の目。

その目には怒りの感情があったが…

憎しみは無い。

そして、低く唸った時に一瞬揺れた瞳には、哀しみと慈愛があった。




あぁ


こいつは――




アマ公がオロチに対して抱いている心底の感情が、オイラにはすぐに理解できた。

確かめるように、オロチを再び見れば、こちらもまた……




なんて切ない話しなんだろうなァ?


一方は大神様

もう一方は大妖怪




立場も、境遇も……あまりにも違い過ぎた。

平行線が交わることは、万が一にもないってことを、お互い解っている。




それでも……



お互いを望まずにはいられないよなァ…




あぁ、なんでオイラはこんな所に居るんだよ


なんでオイラが、こんな辛い場面に立ち会わないといけない?



……理由なんて、オイラには解る筈もないが…


もし、勝手に決めても良いなら――



“せめて、絵の中でだけでも、こいつらを幸せにしてやる為”


そう思っても、罰は当たらないだろォ?


オイラは旅絵師イッスン様だ!


描くことぐらいしか、オイラに出来ることなんてないんだからなァ…




どちらかが先に動いた瞬間、戦いが始まるだろう。


一方が息絶えるまで。





――永遠のように…長い時を。



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