雑誌

□一番に会いたくて
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新しい年と、今までの君

これからの君と、いつもの自分







 





いつもより一層、夕食が上手く作れたサマイクルは、満足そうな笑みを浮かべて器を運んでいた。

これだけ美味しいと、誰かに食べさせたくなったのだ。


なら、誰に食べさせよう?


そう考えて、一番最初に浮かんだ人物はオキクルミだった。


ろくな料理を食べていないだろうオキクルミを思い、サマイクルは中身が零れないよう大事に抱える。

もしかすると、オキクルミは狩りに出掛けているかもしれないとも思ったが…


それならそれで、温めれば夜食や朝食にもなる。


「…完璧だ」


サマイクルは面の奥でにこにこしながら、目の前にある簾をめくった。


「オキクルミ……居るか?」


一応、声をかけながら入室する。


「……サマイクルか」


パチパチと燃える火から視線を外し、オキクルミがこちらを向く。

どうやら、今夜は家に居る日らしい。


サマイクルはますます嬉しくなった。

やはり、食べてもらうなら出来立ての方が美味しい。


「夕食が上手く出来たのでな。
お前に食べさせてやろうと思って持ってきた」


オキクルミに何か言われる前に、テキパキと夕食の準備をしていく。

その際に、準備の邪魔になるため面を隣に置いた。

火にかけた器の中の料理は、元から温かかったのですぐにグツグツと言い始める。


「何故、俺の為にここまで……?」


料理を混ぜているサマイクルに目を向け、オキクルミは問い掛ける。

本当に不思議でしかたがない様子だ。

サマイクルには、面越しでもオキクルミの表情が容易に想像できた。

料理が混ざるのを眺めたまま、問いに答えてやる。


「……そりゃあ、今まで面倒を見てきたんだからな。
今更、いきなり止める等出来んよ。
………ほら、温かいうちに食べると良い」


十分に湯気が出ている料理を小さい椀によそって、差し出す。


「……俺はもう子供ではない」


文句を言いながらも、ちゃんと差し出された椀を受け取った。

言っていることと、やっていることが正反対のオキクルミの行動にサマイクルは軽く苦笑する。


「まぁ、これは我が世話を焼きたくてやっていることだ。
嫌なら、その都度断ってくれて構わない」


自分の椀にもちゃっかりよそったサマイクルは、笑いながら食べ始めた。

やはり良い出来だ、と嬉しそうに頷いているサマイクルをちらりと見た後、オキクルミは椀の中の料理を見る。


湯気が鼻を擽る。

手に伝わる料理の温かさと、良い匂いがオキクルミの食欲をそそった。

ごくり、と唾を飲み込む。


「……別に…嫌いじゃない」


ぼそ、と呟いたオキクルミはそのまま面を外して豪快に食べ始める。

けしてウマイともマズイとも言わないが、サマイクルはその食べっぷりだけで十分嬉しかった。

微笑しながら、また一口食べる。



“―――ウォォォン…”


「ん……?」


どこからか狼の遠吠えが聞こえた。

サマイクルは聞こえた方向に顔を向ける。


“――――ォォ…ン…”


再び聞こえる遠吠え。

それはオイナ族の様に特殊な狼ではなく、野生の声だった。

それでも、いくらかオイナ族にも生き物の感情というものは判る。

あの声には、嬉しさや寂しさなど……複雑な感情が入っていた。


「……!」


サマイクルは何かを思い出したのか、オキクルミにぱっ、と顔を向けた。

その気配を察知して、オキクルミもサマイクルを見る。


「そういえば、オキクルミ。
もう元旦だ」




…何事かと思えば……




「……そうだな」


オキクルミは、興味が無いというように素っ気なく返すと、再び料理に目を戻して食べ始める。

その態度にサマイクルは呆れた。


「……本当にお前という奴は、時間の流れを気にしないな。
…まぁ、良い……“明けましておめでとう”、オキクルミ」


オキクルミは椀越しにサマイクルを見る。

サマイクルは嬉しそうに、こちらを見て微笑んでいた。


「…ふん……………おめでとう…」


まさか、応えるとは予想していなかったのかサマイクルは目を見開いて凝視してくる。

気恥ずかしくなったオキクルミは目を合わせずに、椀を突き出した。


「………お代わり」


「ぁ………あぁ…」


その言葉で我にかえったサマイクルは、椀を受け取りよそってやる。

まだ、驚きからばくばく言う心臓を宥めようと心中では必死になりながらも、椀を渡した。




ま、まさか新年早々こんな事が起こるとは……


おかしな元旦もあるものだな…


……まぁ、たまにはそういうのも良いか




気を悪くされると後が面倒なので、気付かれないようにサマイクルは笑う。



それから二人は、食べ終えると他愛ない話しをしたりして夜を過ごしたのだった。








新しい年だからといって、新しく事を起こさねばいけないわけではないけれど


できれば新しい事にも出会いたい、なんて……




これは欲張りなのだろうか?




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