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□苦悩。
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「ジュリエットねー、オレの事『わりとイイと思う』ってゆってた」


えへへ、と笑いながら槌谷がとんでもない事を言った。


ちょっと待って、アナタ今何て言った?


オレでさえそんな事言われたことないのに!


「…二見ー?」


当の本人は悪怯れなくオレを覗いてくる。


アナタの落とした爆弾でこーなったんでしょーが。


言いたいのをグッと堪える。


相手は槌谷だ。


そう、幼なじみで腐れ縁の、槌谷斉だ。


………………。


…斉のくせに。


「どしたの?」


ああ、いかん。こんなの八つ当りもいいとこだ。


「何でもない。…オレ、保健室で寝てくるねー」


手をひらひらさせながら席を立つと、何も言わずに槌谷がジッと見てくる。


その視線を避けるように、オレは槌谷に背を向けた――。






…だいたいあんな話題を出すンじゃなかった。


『あの人ってオレらの事どー思ってんのかな?』


深い意味はない、ただの疑問でしたよ。


だってあの人は思ってても口に出すよーなタイプじゃないし。


でも、いつもバカ騒ぎしてるオレらを呆れこそするものの、邪険にした事はないから。


(…不思議に思わんほうがおかしいでしょ)


あの人は一緒にいてどう思ってるンだろー、って。


ただの暇つぶし?


一人よりはマシだから?


…それでもいいから、オレは一緒にいたい。


なーんてガラにもなく真面目に思っちゃってんのに。


あの人はそんな素振りすら見せないから、槌谷に言ってみたら…さっきのお言葉ですよ。


わりとイイと思う?


そんな最上級品の誉め言葉、オレはちーとももらったことないですがそれってどーよ?


槌谷だけに言うなんてたまりませんて。


つらつらと考えながら保健室に到着。


勝手知ったる手つきでドアを開けると―――目下悩みの種が、そこにいた。
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